研究課題/領域番号 |
22K11672
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
崎田 嘉寛 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (60390275)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 体育教員 / 体育学研究 / 実践研究 |
研究実績の概要 |
研究初年度となる本年度は、まず、1960年代から70年代までの学校体育実践を対象とした先行研究を改めて検討した。この結果、対象時期の学校体育実践に関する全体的傾向を把握することを課題の一つとして設定した。この課題については、これまで学校体育に関する定期刊行物を主たる資料として部分的に取り組まれていたため、本研究では『体育学研究』(日本体育学会)を手掛かりとして、現場の体育教員がどのような研究を志向していたのかを明らかにすることとした。1960年代に『体育学研究』に掲載された5,751件の研究を対象として分析した結果、小・中・高の現職体育教員が筆頭筆者として従事した研究は497件あり(参与した研究数は790件)、この内で実践研究(部活動を含む学校体育の指導法等に関する研究)が127件(25.6%)であった。この実践研究における研究目的の記述を分析した結果、主たる傾向の一つとして、練習を通じた技能を指導や学習の効果で検討する目的が立てられていると読み取れた。続いて、実践研究の研究内容(運動種目)として球技が最も多かったこと(42件:33%)を確認し、これらの球技研究の研究成果では、競技スポーツ指導と学校体育指導の往還的解決が、教員主導の学習改善と授業マネジメントの改善によって模索されていたことが示唆された。総じて、1960年代の体育教員は、実践研究を通じて日々の授業等で顕在する課題の解決を試みていたと把握することができた。 次に、上記の課題に取り組む一方で、1960年代から70年代までの学校体育を支えた体力づくり論、運動文化論、プレイ論に関する史料を収集するための予備調査を実施した。国内の国公立図書館のデータベースを中心に渉猟するとともに、NPO法人が運営する「体育とスポーツの図書館」において実地調査を行ない、研究対象時期に関する聞き取りを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、1960年代の学校体育実践がどのように独自性を追求してきたのかを、現場の体育教員による「研究」という視点から把握しようと試みた。このことは、当該時期の学校体育の制度、思想、実践を架橋する視点であったと捉えている。しかしながら、これまでの体育史研究において採用されることが少なかった定量的分析を試みたため、分析対象を限定せざるを得なかった。ただし、分析手法の手続きを確立することができ、次年度以降の作業につなげることができたと考えている。このことも踏まえれば一定程度の進捗があったと判断している。 他方で、1960-70年代の学校体育実践に関する史料収集については、予備調査段階であるため進捗状況を判断することは困難であるが、実地調査の必要性と関係者からの聞き取り調査の重要性を再認識したところである。また、予想される膨大な史料群から意味ある鉱脈を発見する手掛りを得つつあり、次年度の本調査に活かすことができると考えている。 以上のことから、おおむね順調に研究が進展していると裁定した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果を踏まえて、研究中間年となる次年度は、以下の3つに取り組むことで研究を推進する。 まず、1970年代において日本体育学会で体育方法(1969年)と体育科教育(1978年)の専門分科会が設立されていくことを踏まえて、当該時期に現場の体育教員がどのような実践研究を試みていたのかという動向を『体育学研究』を手掛りとして把捉する。この際、初年度において残されていた課題とともに新たな課題を追加して取り組むことにする。具体的には、1960-70年代に小・中・高の現職体育教員が筆頭筆者として従事した実践研究以外の研究傾向を明らかにする。他方で、1960-70年代の日本体力医学会において、学校(児童・生徒)を対象とした研究の内容を定期刊行物(学会発表を含む)から明らかにする。 次に、用語として措定する前の「スポーツ教育」に着目しながら、1960-70年代の学校体育を取り巻く体力づくり論、運動文化論、プレイ論に関する史料を収集するための本調査を実施する。収集した史料の分析に際しては、学校体育研究同志会、全国体育学習研究会、教育科学研究会「身体と教育」部会といった団体との関連を足掛かりとして、価値判断を担った人物、体育的課題に対する信念、併存する体育観との差異、実践化への道程を明らかにすることを試みる。 最後に、1960年代までに発足した体育研究サークル(体育と人間関係研究会、日本体操研究会、偶土会、北方体育学習研究会、体育文化研究会、清里研究会など)の実践史料の予備調査を実施することで最終年度に備える。
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