研究課題/領域番号 |
22K11674
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中村 剛 筑波大学, 体育系, 准教授 (60341707)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 処方能力 / 指導力 / 動感 / 身体知 |
研究実績の概要 |
本研究計画は、令和4年度から6年度の3年間で実施される予定のものである。本研究において最終的に達成しようとしている研究目的は、体育・スポーツ指導者、例えば、体育教師や競技スポーツ指導者が本質必然的に身につけているべき専門的な指導力の一つである「処方能力」に関わる動感意識の構造を解明し、その養成方法論の構築に向けた基礎資料を得ることである。 初年度である令和4年度においては、当初提出された研究実施計画にしたがって、器械運動のベテラン指導者が身につけている処方能力に関する動感意識の特徴を明らかにする研究が行われた。具体的には、まず、処方能力の一つである「動感呈示能力」のうちの動感言語の適切な使用に関わる動感意識の構造的特徴が明らかにされた。またそれに加えて、この動感呈示能力を高めていくためには、指導者自らが自身の運動経験を超越論的立場から反省分析すること、言い換えれば、指導者が、かつて学習者だった頃に経験した運動に関する受動的な動感志向性を自ら反省し、言語化する志向努力が不可欠であることが解明されたのであった。 これら本研究の成果によって、ベテラン指導者が暗黙的に身体化している私秘的な指導力の一端を開示するとともに、体育・スポーツ指導者の専門的指導力を高めるための具体的な方法についても明らかにすることができたと考えている。 当然、この研究成果は、この指導者に不可欠な処方能力に関する動感意識構造の全貌解明とその養成方法論の構築に対して貴重な資料を提供することになり、延いては今後のわが国における体育・スポーツ指導者の養成カリキュラムの見直しに資する資料を提供することにつながると考えられる。さらにこの成果は、この処方能力を養成する上で必要となる、この能力の状態を適切に評価するための方法の検討、開発にとっても重要な内容を含んでいると言えるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の研究実施計画においては、熟練指導者の処方能力の解明と体育系大学に所属している学生の処方能力の解明が予定されていた。まず前者については、処方能力の中核的な要素の一つである動感呈示能力に関して、熟練指導者の動感志向性の特徴を解明する研究を行った。そこでは、熟練指導者の内部で、自らがかつて学習者だった頃に積んだ運動経験を超越論的立場から反省分析することで、暗黙知の次元にある無意識的な動感意識を能動的に把握する志向努力が機能しており、それにより学習者に的確なアドバイスを与えられていることが明らかになった。一方、後者については、指導対象となる運動を身につけただけでは、暗黙知的な動感能力の形成の段階に留まるため、処方能力としての動感呈示能力は未熟な状態に留まらざるをえず、運動学習を通して処方能力を向上させるためには、その動感志向体験を自ら反省分析する必要のあることが明らかにされた。このことから、たとえ実技実習で多くの運動技能を身につけている体育系大学の学生であったとしても、その運動学習にとって不可欠な動感意識について言及することはできず、それ故に、その動感呈示能力は未熟な状態にある可能性が高いことが示唆された。 なおこれらの研究成果については、令和5年の2月13日から14日にドイツのブラウンシュバイク工科大学で開催されたドイツスポーツ科学学会の器械運動分科会において既に公表している。 このように令和4年度の研究計画に記載した研究課題は、年度内におおむね終了し、その研究成果については国際学会において公表しており、特に大きな遅れは見られない。 また3年計画の初年度における研究が順調に遂行できたことにより、2年目以降の研究計画の遂行にスムーズに移行できると考えている。 以上の理由から、本研究は「おおむね順調に伸展している」と評価している。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の研究計画においては、体育・スポーツの指導者に不可欠な処方能力に関する熟練指導者と学生の比較から、両者の意識構造の違いが解明されるとともに、大学生が熟練指導者の有する処方能力を身につけるための方法が検討され、この能力の養成実習が計画、実行される予定になっている。令和4年度の研究研究については、おおむね研究計画どおりに進捗していることから、今のところ、令和5年度以降も、当初の計画に沿って研究活動を進めていきたいと考えている。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響なども含めて、今後、研究を進める上で何らかの障害が発生したり、追加の研究調査や実験などが必要になることも十分に考えられる。したがって、令和5年度の研究に着手するにあたっては、その研究計画を再度検証することから始めたい。その上で、研究計画の進捗状況をこまめに点検しながら研究を遂行するようにし、必要な場合には、即座に研究計画自体を臨機に変更するなどして、大幅な研究計画の遅延が発生しないように対応したいと考えている。 そのためにも、前年度と同様、令和5年度についても、年度の開始当初から研究に着手するようにすることで、障害などが発生したときの対応に必要な時間を十分に確保できるようにする。また、様々な不測の事態を考慮して、研究調査や実験を実施する時期については、予め複数の実施案を作成するなどの準備を行う。 以上のような研究の推進方策を準備した上で、確実に研究計画を遂行していこうと考えている。
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