研究課題/領域番号 |
22K11676
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
金光 真理子 横浜国立大学, 教育学部, 准教授 (40466941)
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研究分担者 |
森野 かおり 横浜国立大学, 教育学部, 講師 (20739198)
伊藤 裕来 横浜国立大学, 教育学部, 講師 (80910893)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 身体知 / 音楽科教育 / 指導法 |
研究実績の概要 |
本研究は身体知の観点から音楽の学びを捉え直し、教育現場と教員養成あるいは学校と大学との繋がりを見据えた指導法およびサポート体制の構築をめざしている。一年目(2022)は、音楽科の声楽、器楽、日本の音楽・諸外国の音楽の3つの分野を対象として、実技指導のメソッドの検証、指導者へのインタビュー調査、授業実践の参与観察等を行った。 実技指導のメソッドに関しては、演奏者自身の身体動作の理解に関わるボディ・マッピングを取り上げ、伊藤・金光・森野で古屋絵里氏のレッスンを受講し(6月28日)、音楽科の実技指導へ活かすことができるポイントや課題を検討した。また声楽の分野では、伊藤が解剖学の観点からアプローチする声楽家・山本篤氏の講座、歌唱時の呼吸法を独自にメソッド化するソフィー・エルヴェ氏(パリ18区シャルパンティエ音楽院教授)のレッスンを通して、声楽指導のさまざまな可能性を調査した。 実技指導のメソッドやレッスンをフィールドワークする一方、指導者の見解や課題意識を見究めるためインタビュー調査を行った。現職教員4名へのインタビュー(4月30日、8月15・18・22日)、箏の指導者へのインタビュー(9月7日)、リコーダーの指導者へのインタビュー(10月27日)を通して、それぞれの楽器や指導内容で重視するポイント、生徒に応じた指導の実態等を把握することができた。 また、授業実践における学びの身体性を検討するため、金光・森野が箏の授業のフィールドワークを行い(10月~1月)、実際に学びながら学生を参与観察した他、金光が座間高校の音楽の授業を参与観察し(5月16日、6月21日、12月5日)、教員との協議も行った。 以上の調査を進めながら、研究会を3回(3月9日、8月1日、1月9日)行い、各調査のデータを参照しながら身体知としての音楽の学びについて議論を重ね、今後の分析データ収集の方向性を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目は本研究の第一段階である音楽を身体知として学び教える指導法について、参与観察やインタビュー調査を通じて一定の基礎データを得ることができたと考えている。 身体知の観点から注目する実技指導メソッドのうち、初年度に検討したボディ・マッピングや声楽のメソッドはアレクサンダー・テクニークとつながることが判ったため、今後の調査対象としていく。また指導者へのインタビュー調査から、音楽する身体の共通点と同時に楽器によって異なる身体性、すなわち各楽器に応じた演奏者の身体の使い方や意識もみえてきたため、引き続き音楽科で取り上げるさまざまな楽器の身体性について調査していく。さらに現職教員へのインタビュー調査から、歌唱指導、楽器指導、アンサンブル指導、評価の問題等、さまざまな課題があることが判ったため、教育現場の課題解決を念頭に、大学の授業(とくに小教専音楽)の内容・指導を再検討し、その効果を検証するための協議や授業アンケートも進めている。 一年目の基礎データはこれから分析や考察を進めていく対象でもあるが、すでに声楽と器楽と日本の音楽・諸外国の音楽という分野の垣根を超えて、私たちが協働しながら音楽する身体の学びを包括的にデザインする視座をもたらしており、その成果の一つとして高校生対象の公開講座(11月3日「耳と心と体で学び教える音楽」)を行うことができた。また研究活動の成果の一環として各人がそれぞれの分野を中心に論文を纏めている。 なお、当初予定していたインドネシアの楽器ガムランの購入は、交付額、楽器代金および輸送費の高騰等の理由から断念せざるをえなくなったため、楽器購入は研究の目的に応じて再検討している。
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今後の研究の推進方策 |
二年目(2023)は、引き続き基礎データの収集を進める傍ら、その分析・考察結果を学会の大会・例会における口頭発表や学会誌への投稿として公開していく。 音楽の実技指導のメソッドとして注目するアレクサンダー・テクニークについては、バジル・クリッツァー氏、嶋村順子氏、安納献氏(いずれも予定)等、複数の指導者のレッスンおよび学生も対象とした公開講座を行い、音楽演奏時の身体の分析や指導法へ向けた検討等を進めていく。 また、身体知という観点から音楽を学び教える理論的な基盤を整理する一方、教育現場の課題解決を見据えた大学の授業(小教専音楽他)の改善を進めていく。そのプロセスとして現在の課題と取り組みの実態と成果を日本音楽教育学会等において発表し、音楽教育に携わる研究者や教員から広くフィードバックを得る予定である。 一・二年目の調査および考察の成果によっては、当初の計画通り、三年目・四年目は指導法として音楽科の指導の内容や方法をまとめていくと同時に、より実践的なレベルでのニーズに答えることができるような動画教材や教員のコミュニティ作りにも取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、諸外国の音楽の分野において、学校教育に適したアンサンブル楽器として、インドネシアのガムランを購入する予定であったが、交付額、楽器代金および輸送費の高騰等の理由から断念せざるをえなくなったため、研究の目的に応じた新たな使途を再検討の上、別のアンサンブル楽器あるいはワークショップ等の実施を検討している。
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