研究課題/領域番号 |
22K11707
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
石田 卓巳 国際医療福祉大学, 福岡薬学部, 教授 (10301342)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | AhR シグナル / 亜鉛恒常性 / キヌレニン / がん細胞 |
研究実績の概要 |
微量必須元素である亜鉛の恒常性の破綻は、細胞の正常な機能の撹乱に大きく関与することが示唆されている。がん細胞ではトリプトファンの代謝酵素であるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼやトリプトファン-2,3-ジオキシゲナーゼが高発現しており、これに伴って代謝物であるキヌレニンの濃度が高くなっている。最近、このキヌレニンが芳香族炭化水素受容体(AhR)の内因性リガンドである可能性が示された。また、申請者のこれまでの研究から、AhR リガンドの活性化が細胞内の亜鉛恒常性を撹乱することが示唆されている。このため、キヌレニンによる AhR の活性化ががん細胞における亜鉛恒常性の撹乱を誘発し、その結果、正常細胞では見られないようながん細胞特異的な細胞機能の獲得に関与するのではないかとする仮説が想起された。昨年度は、この仮説を検証するため、キヌレニンによる AhR の活性化に関する解析を中心に研究を行った。本年度は、その結果を踏まえ、キヌレニン暴露に伴う細胞内亜鉛恒常性への影響を検討した。 ヒト肝がん HepG2 細胞にキヌレニンを 3時間および 24 時間暴露し、細胞内の総亜鉛量を ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分析)法にて定量した。その結果、キヌレニン 3 時間暴露において細胞内の総亜鉛量が減少する傾向が示されたが、暴露 24 時間後では認められなかった。また、細胞内の遊離亜鉛と特異的に結合して蛍光を発する Zn-AF2DA 試薬を用いて細胞内の亜鉛分布を確認したところ、暴露 3 時間後で核周辺部への局在が認められたが 24 時間後ではその局在が消失していることが明らかとなった。さらに、一部の亜鉛特異的な輸送タンパク質に対する real-time PCR を行なった結果、キヌレニンによる mRNA の発現量の変動が認められ細胞内亜鉛の局在の変化との関連性が注目された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、昨年度に続きトリプトファン代謝物であるキヌレニンの暴露が細胞中の AhR シグナルに与える影響を解析した。今年度の詳細な検討から、キヌレニンが AhR シグナルのみを特異的に活性化する因子であり、多環芳香族炭化水素の暴露時に見られるような酸化的ストレスを介したストレスシグナルの活性化を誘発しないことが示された。また、時間依存的な影響の解析から、キヌレニンの暴露 3 時間後では AhR シグナルの活性化が認められるものの、暴露 24 時間後では認められないことが明らかとなったことから、キヌレニンは何らかの要因により細胞内で速やかに代謝され消失していることが推測された。さらに、交付申請書に記載した内容に則り、キヌレニンによる細胞内の亜鉛恒常性への影響を検討するため ICP-AES 法を用いて細胞内亜鉛量の測定を行った。この際、測定が外注委託であったことや測定条件の決定に時間がかかったことから研究の進行が一時的に停滞してしまった。さらに、細胞の亜鉛恒常性を制御する亜鉛トランスポーターの発現変動を解析するため real-time PCR を行なったが、適切な primer の設計に時間を要してしまった。これらの要因から研究の進捗はやや遅れたと判断するが、現在、その回復に向けて研究を進行中である。亜鉛輸送タンパク質には亜鉛の流入制御に 14 種類、流出制御に 10 種類の isoform が存在する。このため、現時点では一部の亜鉛輸送タンパク質についてのみ解析が終了しているが、これに関しては実験を継続中であり近日中に全 isoform に対する解析結果が得られるものと考えている。以上の検討を含め、課題の最終年度である来年度は、目標の達成に向け計画通り研究を進めていけるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在解析中の結果を含め研究の進捗はやや遅れ気味であるものの回復は可能であると考えている。今後も申請書の内容に則り解析を進め、キヌレニンによる AhR シグナルの活性化が細胞内の亜鉛恒常性へ及ぼす影響をタンパク質レベル、および細胞機能のレベルから明らかにする。一方、これまでの検討から、キヌレニン暴露に伴う細胞の応答、特に AhR シグナルを介した酵素誘導や細胞毒性が、これまで申請者が外因性リガンドを用いて観察してきたものより弱い傾向にあることが明らかとなった。このように、キヌレニンによる影響が当初想定していたものより弱く、今後の検討において明確な結果が得られない可能性も想定されたため、申請書に記載した通りより強い AhR シグナルの活性化因子である多環芳香族炭化水素を使っての検討も計画している。現在、ベンゾ(a)ピレンの使用を検討しており、これを用いた解析も進めることでキヌレニン暴露により得られた結果の補強に努めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究の進行が予定よりもやや停滞したこと、さらに、細胞内亜鉛量の測定を委託した ICP-AES 法について時間はかかったものの測定件数が予想よりも少ない状況で結果が得られたことなどから、次年度使用額が生じる結果となった。今年度生じた次年度使用額については、次年度に計画している実験の消耗品の購入経費に追加するとともに、測定を外部に委託する際の経費(輸送費等)として使用する予定である。
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