研究課題/領域番号 |
22K11736
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研究機関 | 新潟工科大学 |
研究代表者 |
久保田 真敏 新潟工科大学, 工学部, 准教授 (00595879)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | デンプン分解米胚乳タンパク質 / 糖尿病 / 糖尿病性腎症 / 脂肪肝 / 抗酸化 |
研究実績の概要 |
2022年度は,デンプン分解米胚乳タンパク質(SD-REP)の摂取が糖尿病およびその合併症,特に糖尿病性腎症に与える影響について検討を行った。供試動物として6週齢の雄性SDT Fattyラットを用い,8週間の飼養試験を行った。試験飼料は窒素源としてカゼインあるいはSD-REPを用い,粗タンパク質含量が20 %となるように調製した。試験群は対照群であるカゼイン飼料摂取SDT Fattyラット(C)群,SD-REP飼料摂取SDT Fattyラット(R)群,および非糖尿病のカゼイン飼料摂取SDラット(NC)群の計3群を設けた。試験期間中は糖尿病の進行状況を把握するために,空腹時血糖値を測定した。また糖尿病性腎症の早期診断基準の1つである尿中アルブミン排泄の測定を行うために,試験前,2,4,6,8週目に尿の回収を行った。試験終了時には,血液ならびに各種臓器を回収し,ヘモグロビンA1c(HbA1c)の測定や肝臓中脂質過酸化の解析などに供した。 空腹時血糖値の測定結果より,C群と比較してR群では明確な血糖値上昇抑制作用は確認できず,HbA1cでも同様であった。以上の検討結果より,SD-REPは明確な血糖値上昇抑制作用を有していない可能性が示された。一方,尿中アルブミン排泄の結果より,試験開始4週目の段階でC群と比較してR群で有意に低値を示し,有意差こそみられなかったもののその後も抑制する傾向がみられた。以上の結果より,SD-REPは糖尿病性腎症の進行遅延作用を有している可能性が示された。また肝臓中脂質の解析結果より,R群で肝臓中総脂質量の有意な抑制がみられ,肝臓への脂質蓄積が抑制されていることが示された。さらに脂質過酸化の指標の1つであるTBARS測定の結果より,C群と比較してR群で有意に低値を示すことが明らかとなり,SD-REPの摂取が脂質の酸化を抑制している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の内容に従いデンプン分解米胚乳タンパク質(SD-REP)の摂取が糖尿病および糖尿病性腎症に与える影響について検討を行った。空腹時血糖値ならびにヘモグロビンA1cの測定結果より,SD-REP摂取による明確な血糖値上昇抑制作用は確認できなかった。申請内容では血中のインスリン濃度などについても検討を行う予定にしていたが,血糖値において有益な作用がみられなかったことから,これらパラメータに影響を与えている可能性は低いと考え,これらの評価は見送った。一方,糖尿病性腎症に与える影響を評価するために尿中アルブミン排泄の測定を行い,SD-REPの摂取が尿中アルブミン排泄を有意に抑制し,糖尿病性腎症の進行を遅延させる作用を有している可能性を示した。 また肝臓中脂質含量の測定も行い,SD-REPが肝臓への脂質蓄積を抑制する作用を有していることを示した。申請書では,脂肪酸のβ酸化系の代表的な律速酵素であるCPT-1発現の検討を行う予定にしていたが,こちらについては現在検討を行っている最中である。また申請書に記載していなかった新たな評価項目として,脂肪肝で大きな問題となる肝臓中の酸化ストレスに与える影響についても検討を行い,SD-REPが脂質の酸化を抑制する作用を有している可能性を示した。さらにβ酸化系亢進以外の作用メカニズムの検討として,腸内細菌叢の変動を介した肝臓中脂質蓄積抑制作用について検討を行った。腸内細菌叢の解析結果より,SD-REP摂取により短鎖脂肪酸の産生に関わる細菌であるバクテロイデス属の細菌群の有意な上昇が示され,これら細菌叢の変動が肝臓中脂質蓄積に影響を与えている可能性が期待された。 上述したように,申請書の内容に記載されている解析が一部終了していないものもみられるが,記載のない新たな解析も行い,有益な結果を示すことができており,概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の検討では,食事誘導性肥満モデルである高脂肪高ショ糖飼料摂取マウスを用いて,デンプン分解米胚乳タンパク質(SD-REP)の摂取が肥満に与える影響を明らかにする。供試動物として6週齢の雄性C57BL/6マウスを用い,10週間の飼養試験を行う。試験飼料は窒素源としてカゼインまたはSD-REPを用い,粗タンパク質含量20 %となるように調製する。また肥満誘導を目的に,脂肪含量を30 %(標準飼料の約4倍以上),スクロース含量を20 %(標準飼料の2倍)に設定した高脂肪高ショ糖飼料を給与する。試験群は対照群である高脂肪高ショ糖カゼイン(HC)群,高脂肪高ショ糖SD-REP(HR)群,標準カゼイン(NC)群の計3群を設定する。試験期間中には体重の増加量(毎週)を測定し,SD-REPの摂取が肥満に与える影響を評価する。試験最終週には糞回収を2日間行い,糞中の菌叢解析ならびに脂質含量測定に供する。試験終了時には下大静脈から採血を行った後,各種臓器(肝臓,腎臓,腎周囲脂肪,精巣上体脂肪,腸間膜脂肪)重量を測定し,回収した血漿は血液生化学分析に供する。 抗肥満作用の作用メカニズムとして,脂質排泄促進作用や腸内細菌叢の変動を介した経路が想定されている。これらの経路に関与する食品成分の代表として食物繊維があり,食品中の難消化成分にはこのような経路を介して抗肥満作用を呈する可能性が期待される。一方,SD-REPには難消化性タンパク質であるプロラミンが含まれていることが明らかとなっており,SD-REPの抗肥満作用には難消化性タンパク質が関与している可能性が期待される。そこで本年度の研究では,この難消化性のプロラミンの機能に注目し,16S rRNA解析を用いた糞中菌叢解析および糞中脂質含量の測定を行い,腸内細菌叢に与える影響ならびに脂質排泄促進作用について評価する。
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