研究課題/領域番号 |
22K11749
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
蕪山 由己人 宇都宮大学, 農学部, 教授 (20285042)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | コラーゲン / ペプチド / 腸管吸収 / 細胞骨格制御 / 皮膚幹細胞 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績の概要は以下三点となる。 ①腸管吸収促進剤や肺胞上皮を介した投与法によるコラーゲンペプチドの吸収促進:コラーゲン由来の環状ペプチドが細胞間隙経路、アミノ酸残基数10を超えるペプチドがトランスサイト-シス経路で腸管を通過することを明らかにした。これにより、カプサイシンや麻黄エキスの並行投与による吸収促進の可能性が示唆された。肺胞上皮細胞は細胞層の形成と一定期間の維持が可能でありチャンバーアッセイ法を確立可能であることが判明した。しかし、長期間培養ではプレートより細胞が剥離する傾向が見られたため、トリヨードチロニン等分化促進因子の添加が必要であると考えられた。 ②コラーゲン由来ペプチドが、皮膚再生時に幹細胞に与える影響:マウスを用いた皮膚再生モデルにおいて、コラーゲン加水分解物投与により幹細胞マーカー陽性細胞の再生部位への遊走が促進されることが判明した。また、細胞培養系において、代表的コラーゲン由来ジペプチドであるprolyl-hydroxyproline(PO)が幹細胞マーカー陽性細胞の増殖を有意に促進することを明らかにした。以上より、コラーゲン加水分解物の標的の一つが、毛包部位に存在する幹細胞であることが示された。 ③培養皮膚線維芽細胞を用いたコラーゲンペプチドの作用機序の解明:皮膚再生時の組織収縮を反映させたモデルであるゲル収縮アッセイにおいて、線維芽細胞をPOにより刺激した所、収縮が促進することを見出した。更にphalloidine染色を行った所、PO添加により、アクチンストレスファイバーが一定方向に著しく増強することが明らかになった。以上より、POは線維芽細胞内の特定のシグナル伝達系を活性化し、細胞骨格系を制御することで創傷の収縮を促進する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、皮膚再生メカニズムの解析を集中的に実施し一定の結果を得た。コラーゲン加水分解物投与がin vivoにおいて、再生部位への幹細胞の遊走を促進することや、POが培養皮膚幹細胞の増殖を著しく促進することを明らかにできた。皮膚常在性の細胞である線維芽細胞への影響も明らかになり、細胞骨格制御を行うことで、皮膚の収縮を促進することが判明した。これらの結果は当初計画より先んじて進行しており、今後の課題はより詳細なメカニズム解析と考えられる。腸管吸収促進剤の検討に関しては、予備的実験により今後どのようなパスウェイのモジュレーターが適切であるかを判断できるまでに至ったが、実際の検討は次年度以降となった。また肺胞や口腔の細胞を用いた物質透過系の解析については、培養細胞系の安定的な細胞層形成には至らず、予定より若干進行が遅れ気味である。以上より、総じて概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
皮膚再生現象に対するコラーゲン由来ペプチドの影響評価に関しては、腸管吸収量の増加を見なくても、現状で幹細胞や線維芽細胞への影響が認められている状況である。したがって、今後関連シグナル系への影響を解析し具体的な標的分子の同定などを目指す。腸管吸収剤の影響に関しては、令和5年度にin vivo実験を実施し、結果を得る。質量分析機器によるペプチドの定量解析が安定に行える状況であるので、支障は少ないと考える。口腔粘膜細胞、肺胞上皮細胞を用いた物質透過アッセイ系の構築に関しては、引き続き分化促進剤などの影響を評価し、安定な細胞層構築に向けた情報を得る。
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