研究課題
肥満はエネルギーの摂取と消費のアンバランスに起因する代謝異常である。エネルギー消費面からの肥満対策として、身体活動の増加が重要であることは言うまでもないが、筋肉運動によらない非震え熱産生もターゲットの一つである。ヒトにおいては、1日のエネルギー消費の約10%は食事摂取後に見られる非震え食事誘導熱産生(DIT)による。寒冷刺激時におこる非震え熱産生(CIT)については、交感神経により活性化される褐色脂肪が重要な役割を果たしているが、DITのメカニズムについては不明の点が多い。本研究では、健常成人を対象に様々な試験食を摂取した時のDITを測定するとともに、交感神経活動や消化管ホルモン動態を追跡し、各被験者の褐色脂肪活性やCITとの関係を解析することによって、DITにおける褐色脂肪の役割と関与する神経・内分泌因子を解明することを目的に、以下の研究を実施した。1,DITと褐色脂肪活性の測定・評価:呼気分析法によりDITを測定し、FDG-PET/CT検査による褐色脂肪活性との関係を解析したところ、高糖質食摂取後のDITは褐色脂肪活性と正相関し、DITの35-50%が褐色脂肪に依存することが判明したが、このような正相関は高脂肪食や高蛋白質の摂取後には認められなかった。2,褐色脂肪依存的DITに関与する神経・内分泌因子を探るために、高糖質食と高脂肪食摂取後に採血し、カテコールアミン(交感神経活動の指標)とセクレチン(褐色脂肪を直接活性化すると報告されている消化管ホルモン)の動態を調べたが、いずれも2種の試験食による違いは認められなかった。以上により、高糖質食摂取後の褐色脂肪依存的DITには交感神経やセクレチン以外の因子の関与が示唆されたが、サンプル数が少ないため更なる検討が必要である。
3: やや遅れている
以下のように進捗はやや遅れている。1,ヒトの褐色脂肪活性は個人差が大きく、しかも温暖期に低く寒冷期に高くなるので、全ての実験は寒冷期(1~2月)に実施する必要がある。必要十分な被験者数を確保するために、従来は、予め前年度の寒冷期に褐色脂肪活性を測定しておき、その内から適任者を選抜して次年度にDITを測定してきた。しかし、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により前年度の褐色脂肪活性測定数が限られたため、本年度の被験者数が当初計画よりも少なくなってしまった。このため、高糖質食と高脂肪食摂取後の血液サンプル数が統計解析には不十分で、確定的な結論を得るには至らなかった。2,当初使用したセクレチンELISAキットの信頼性が低く異常数値となったので、複数のELISAキットを購入しその信頼性を比較検討するのに時間を要した。
前年度の結果を踏まえて、以下の研究を進める。1,十分な被験者・サンプル数の確保:新たに健康な若年男性を被験者として、FDG-PET/CT検査を行い褐色脂肪活性を測定した上で、前年度と同様に高糖質食と高脂肪食を摂取させて、DITと血中成分を測定する。これにより、信頼性の高い統計解析を行い、確定的な結論を得る。2,交感神経活動の指標追加:血中カテコールアミンに加えて、心電図を記録し心拍変動の解析から高周波及び低周波成分を抽出して交感神経と副交感神経の活動を評価する。3.消化管ホルモンの測定:セクレチン以外の消化管ホルモンが関与する可能性を探るために、CCK、GIP、GLP-1、グレリンなどの食後血中応答を市販ELISAキットなどを利用して検討する。
「現在までの進捗状況」でも述べたように、被験者数・サンプル数が当初予定したよりも少なく、それに伴い測定費用が低額となった。
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