研究課題/領域番号 |
22K11785
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
市川 弥生子 杏林大学, 医学部, 教授 (90341081)
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研究分担者 |
粟崎 健 杏林大学, 医学部, 教授 (60359669)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 2型糖尿病 / TBC1D4 / ショウジョウバエ / 飢餓 / 寒冷 / ストレス |
研究実績の概要 |
北極圏で生活するイヌイットにおいて、2型糖尿病の発症リスクが高いと報告されているTBC1D4遺伝子バリアントについて臨床病態解析および生物モデルを用いたTBC1D4/plxの機能解析を行った。 世界的に稀少なTBC1D4遺伝子バリアントを有する日本人を、当科の日本人1家系および国内のバイオバンク(東北メディカル・メガバンク:TMM)で13名見出している。当科で見出した日本人1家系の発端者は冬期になると状態が悪化しやすい傾向がみられたため、夏期と冬期の血液検体を用いてリピドーム・メタボローム解析を行なった。夏期と冬期との間で値の変動がみられた代謝物について、今年度、定期的に測定を行ったが、季節による変動はみられなかった。今後も、適時測定し、病態との関連を検証していく。 これまで行ってきたTBC1D4 のショウジョウバエオルソログである plx 遺伝子の解析結果を精査したところ、使用した系統の遺伝的背景(genetic background)が結果に大きく影響する可能性が示された。そこでキイロショウジョウバエの標準系統であるCS系統のバックグラウンドにおいて新たにゲノム編集によりplx null変異体の作成を行った。 新規のplx null変異体を用いて解析を行った結果、通常餌飼育ではCSとplx nullにおいて飢餓耐性はほとんど変わらないが、高タンパク餌や高脂肪餌での飼育後の飢餓耐性はplx nullホモはCSよりやや高い傾向にある可能性が示された。今後さらに解析を重ねる必要があるが、この結果は plx null変異が餌の状態によっては野生型よりも飢餓耐性を高める可能性があることを示唆した。また、ショウジョウバエの血糖であるトレハロースの体液濃度についてplx null変異体を用いて調べたところ、plx nullホモはCSよりも体液中トレハロース濃度が高いことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2型糖尿病の発症リスクに関与するTBC1D4の特定の遺伝子バリアントを持つ日本人を、当科の日本人1家系、さらに国内のバイオバンク(TMM)において13名見出している。当科でフォローしているホモ接合体患者については、リピドーム・メタボローム解析において季節変動がみられた代謝物について、今年度、3か月に1度測定を行ったが、測定値の変動はみられなかった。今後も、適時測定しいく必要がある。 昨年の結果では、ショウジョウバエplx変異体は飢餓耐性が低い傾向にあることが示された。しかしながら、使用した系統の遺伝的背景の影響が実験結果に大きく影響している可能性が明らかになったため、新たにゲノム編集によりplx null変異体の作出を行い、これを用いて、新たに飢餓耐性の解析やショウジョウバエの血糖であるトレハロースの体液濃度の測定を行った。飢餓耐性実験ならびに体液中の糖濃度測定実験は、予想以上に飼育・計測方法に大きく影響されることが明らかになったため、飼育や計測条件をこれまでに考えていた以上に厳格にコントロールする必要が生じた。そのために、多くの条件検討実験を行ったため、研究の進捗に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
1. TBC1D4 遺伝子バリアントを持つ日本人の臨床遺伝学的解析、病態解析 当科が見出した日本人1家系の臨床情報に、国内のバイオバンクにおいて13名見出している。バンク例では臨床情報が限られ、臨床像の傾向をつかみにくいが、多様性の観点からまとめていく。ホモ接合体患者のリピドーム・メタボローム解析で変動がみられた代謝物質については、症状変化時や、寒冷期に適時採血を行い、病態との関連を検証していく。 2.ショウジョウバエにおけるTBC1D4 オルソログのplxの分子機構の解析 これまでの解析結果より、飢餓耐性実験ならびに体液中の糖濃度測定実験は、飼育条件に大きく影響されることがわかったので、昨年度決定した飼育条件、計測条件の下で、これまで行ってきた実験を再度行い、結果を精査する。さらに、plx遺伝子機能の理解のために、作出したplx null 変異体を用いて、絶食後の再摂食における体液中糖濃度の変化について調べ、イヌイットのTBC1D4バリアントでみられるような食後高血糖がショウジョウバエにおいても生じるのかを調べる。また、plxの分子機構を理解するために、トレハロース輸送体ならびにグルコース輸送体とGFPの融合分子を発現する系を用いて、絶食後の再摂食における輸送体の局在変化とそれに対するplxノックアウトならびにplxイヌイットバリアント型変異体の強制発現の影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度においては国内のバイオバンクからの検体分譲費用が生じなかったこと、海外の学会発表を控えたことから、次年度使用額が生じた。 前年度生じた研究の遅延、さらには飼育・計測条件の見直しを行ったために研究全体が遅れたため、予定していた研究の一部を次年度に行うことになったため、次年度使用額が生じた。
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