研究課題/領域番号 |
22K11788
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
安達 三美 帝京大学, 医学部, 教授 (10323693)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 糖質コルチコイド / 老化 / 細胞老化 / セノリテイック薬 / SASP / IL1b |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、副腎皮質から産生分泌されるステロイドホルモンである糖質コルチコイド(Glucocorticoid: GC)の老化促進の役割を解明することである。 これまでに、オスの高齢マウスではGC分泌の日内変動がほぼ消失し、一日を通じて一番高くなるはずの夜並みの高い状態が続くことが明らかになった。本研究は、そのメカニズムの解析と、副腎の老化が及ぼす全身老化への影響を解析することを目的としている。これまでに、加齢に伴い、副腎皮質束状帯に老化細胞が蓄積すること、ステロイド産生における最も重要な因子であるSF1の発現が誘導されること、老化細胞の除去によりその現象が抑えられることが明らかになった。2023年度は、SASPの関与について解析を行った。主要なSASP因子であるIL1β発現が、GC産生を担う副腎皮質束状帯で上昇していた。そのため、IL1β阻害を目的に、高齢マウスに中和抗体を投与した。その結果、SF1発現の抑制及びGCの日内変動回復が認められた。したがって、老化細胞が分泌するIL1βが周囲の副腎皮質細胞に作用することにより、GC分泌が亢進することが明らかになった。さらにメスでは、高齢になっても、GCの日内変動が維持されることが明らかになった。老化細胞の蓄積も、IL1βの発現の上昇も認められるが、その程度は低く、雌雄差が明らかになった。以上により、老化マウスにおけるGC分泌撹乱のメカニズムの一端は明らかになったが、加齢によるGC分泌撹乱が、個体の老化へ及ぼす影響については、未解明な状態である。2024年度は、高齢のオスマウスで、GC分解試薬を投与することによって、日内変動を強制的に回復させ、肝臓、骨格筋組織をはじめとした全身組織の老化のphenotypeに影響するか、解析していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度までの研究で、高齢マウスでは、副腎皮質束状帯に蓄積した老化細胞が分泌する炎症性サイトカインIL1βが、周囲の副腎皮質細胞へ作用して、SF1発現を誘導し、GC分泌を促進することが明らかになった。以上により、老化マウスにおけるGC分泌撹乱のメカニズムの一端は明らかになったため、概ね順調に推移していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)高齢マウスのGCの日内変動を強制的に回復させることにより、老化や老化関連疾患の発症や進行が予防できるか解析する。 (2)2020年に東京大学医科学研究所の中西真教授らが報告した(Omori S. et. al.,Cell Metabolism 2020)p16発現誘導されると蛍光色素であるTomatoが発現するマウス(p16-CreERT2- tdTomato mouse)を用いて、老化副腎皮質束状帯細胞のsingle cell NGS解析を行う。 (3)加齢によるGC撹乱の性差について解析を行う。 (4)副腎皮質束状帯細胞特異的にIL1β受容体がノックアウトされるマウスモデルを用いて、IL1βが副腎皮質細胞に作用しないことで、GC分泌日内変動が回復するか、個体の老化自体が抑制されるか検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文の投稿中であり、リバイスの実験を多く要求され、初年度に計画した実験の準備が遅れた。しかしながら、リバイスの実験により、性差の存在など、新たに明らかになったことが多く、以下の2つの計画を追加し、未使用額を当てる。(1) 加齢によるGC撹乱の性差について解析を行う。(2) 副腎皮質束状帯細胞特異的にIL1β受容体がノックアウトされるマウスモデルを用いて、IL1βが副腎皮質細胞に作用しないことで、GC分泌撹乱が抑制され、日内変動が回復するか、個体の老化自体が抑制されるか検討する。
|