研究課題/領域番号 |
22K11792
|
研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
伊勢川 裕二 武庫川女子大学, 食物栄養科学部, 教授 (20184583)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ポリフェノール / カラハリスイカ / 大豆 / サクナ / フィトエストロゲン / 5-LOX / インフルエンザウイルス / カフェ酸 |
研究実績の概要 |
本研究では、ウリ科の植物抽出物のスクリーニングにより、強い抗ウイルス活性を有するウリ科食品を見出した。カラハリ砂漠を原産とするカラハリスイカ(WWM)は、MDCK細胞におけるインフルエンザウイルスの増殖を強く阻害することが判明、WWM抽出物(WWMJ)中に含まれる抗インフルエンザウイルス物質の検討を行うためにメタボローム解析を実施した。WWMJ中の、プレニル化化合物を含むフラボノイド類の抗ウイルス活性に必要な分子構造を細胞内取り込み量と共に証明した。現在のインフルエンザウイルス治療薬はウイルスの複数ある増殖過程の一部を阻害するが、WWMJのように宿主細胞へのウイルスのエンドサイトーシスとウイルス感染後期(ウイルス出芽前)を強く阻害する食品は新たな阻害剤として有用であると考える。 さらに、大豆成分のダイゼインのインフルエンザウイルスの複製抑制が5-LOX活性化機構であることを解明した。ダイゼインはMEK/ERK経路を活性化させ、5-LOX のSer663をリン酸化させることにより、5-LOXを活性化させ、インフルエンザウイルス増殖の抑制に寄与していることが示された。また、インフルエンザウイルスは宿主の5-LOXを変異させることはできないため、ダイゼインに対しては耐性獲得が困難であると考えられる。したがって、本研究で得られた知見は、新たな創薬ターゲットにつながるアイデアを生み出す可能性がある。 調べたセリ科植物中でサクナが最も抗ウイルス活性が強く、その有効成分がカフェ酸であることが明らかとなった。その量は抽出法により大きく変化することも明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィトエストロゲンとしてのダイゼインの活性化機構でエストロゲンレセプターを介したシグナル伝達でないこと、活性化された5-LOXの産物である5-HETEが脂質とエステル結合し、膜上に存在することは予測していなかったが、ダイゼインの細胞内レセプター検索や5-HETE脂質結合物の生理機能解析といった新たな研究テーマが浮かび上がった。 フィトエストロゲンとしての8-プレニルナリンゲニンがエンドサイトーシスとウイルス感染後期の2箇所を強く阻害することは予測していなかったが、8-プレニルナリンゲニンの細胞内レセプター検索やエンドサイトーシスの阻害機構とウイルス感染後期の阻害機構解析といった新たな研究テーマが浮かび上がった。 サクナ中のカフェ酸の量が抽出時の熱処理の仕方で、大きく変わることは予測していなかったが、このことは調理法により有効成分が増加する可能性を示唆した。
|
今後の研究の推進方策 |
ダイゼインのシグナル伝達においてダイゼインからMEK/ERK経路を活性化がどの様に起こるのか、5-LOXの産物である5-HETEがどの様にウイルス増殖を抑制するのかについて明らかにしてゆく。 カラハリスイカの有効成分の8-プレニルナリンゲニンによるウイルスエントリーの阻害機構とウイルス出芽期の阻害機構を明らかにしてゆく。さらに、他の有効成分であるフィトエストロゲンについてもその阻害機構を明らかにしてゆく。 サクナのカフェ酸が熱処理により、抽出物中の量が増加する機構について、熱処理の条件検討と共に、カフェ酸合成中間産物の量的変化を追うことで代謝経路を明らかにすると同時に活性化機構も明らかにしてゆく。 ユーグレナ中のZn以外の抗ウイルス成分について、まず、ユーグレナの培養条件(炭素源、培地中のZn含有量、光強度など)による含有量の変化、次に含有量の多い条件下で、サンプルを調整し、抗ウイルス成分を部分精製し、同定を行う。さらに、同定産物の阻害機構も明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、実験に十分な時間が割けず、新規の実験ではなく、成果を論文としてまとめ上げるために必要な実験等に資金を費やしたため、金銭的に当初の予算とは異なり、差額が生じた。さらに、2022年度終了後に武庫川女子大学から大阪公立大学に移動が決まったために、これまでの研究成果をまとめて論文として発表することに多くの時間を費やした。研究の遂行上、新たな実験が必要であることが明らかとなり、購入が必要な機器や試薬があることがわかったため、1年目の余剰資金を2年目で使用する予定である。
|