研究課題/領域番号 |
22K11797
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
櫻井 俊宏 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (60707602)
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研究分担者 |
惠 淑萍 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (90337030)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | HDL / 酸化 / ミトコンドリア / NASH |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は酸化ストレスや肥満、生活習慣病が関与する疾患であり、患者数が世界的に増加している。これまでに申請者は、酸化高比重リポタンパク質(酸化HDL)がNASH発症に深く関わることを示唆する知見を得た。また、我々の先行した細胞実験において、ミトコンドリア染色による形態観察において、PBS(コントロール)群ではミトコンドリアが線状であったのに対して酸化HDL添加群では球状を示した。球状のミトコンドリアはエネルギー代謝の低下が示唆されており、また、それらは脂肪肝で見られるという報告があった。さらには、ミトコンドリアは融合と分裂を繰り返すが、融合に関与するMFN2遺伝子の発現量が酸化HDL群で有意に低下したことから、この低下が融合の抑制に働いてミトコンドリアが球状を示した可能性を考えた。したがって、酸化HDLは脂質代謝のみならずミトコンドリア代謝の変化をもたらす可能性があることが推察された。酸化HDLの全容は解明されていないが、この研究が一端となって、将来的にNASH診断法の開発や酸化HDLを減らす薬剤や食品などの開発など健康科学的な発展に役立つことが期待される。このような酸化ストレス因子としての酸化HDLを低下させる健康維持戦略は、国民の健康寿命の延長に大きな役割を果たすと考えられる。 本研究においては、酸化HDLがNASH発症機序にどのように関わるか、特に肝細胞に対して酸化HDLはミトコンドリア機能障害を起こすのかを明らかにすることを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリアの断片化(球状化)はエネルギー代謝の低下やATP産生能の低下に繋がることが知られているため、初期検討の結果は酸化HDLがミトコンドリア機能異常を引き起こす因子の一つであり、NASH発症に寄与する可能性を強く示唆すると考えられた。そこで初年度は、ヒト培養肝細胞を用いる生化学実験により、酸化HDLが実際のミトコンドリア機能にどのように影響するかを検証することとした。 ヒト肝培養細胞C3Aをウェルに播種し、24時間銅酸化させた酸化HDLまたは未酸化HDLまたはPBSを培養液に混和し、それらを各ウェルへ添加し、24時間刺激後にミトコンドリアのATP産生や呼吸能を細胞外フラックスアナライザーを用いて測定し、ミトコンドリア機能の評価を行った。その結果、基礎呼吸及びATP産生量は酸化HDL添加群において、PBS群と比較して有意に低値を示した(P < 0.05)。最大呼吸及び予備呼吸能は酸化HDL添加群において、PBS群と比較して低下傾向を示した(それぞれP = 0.0676、P = 0.0878)。ミトコンドリア によらない呼吸では、未酸化HDL群添加群において、PBS群に対して有意に低値を示し(P < 0.05)、酸化HDL添加群に対しては有意差は見られなかった。プロトンリークには3群で有意な差は認められなかった。 結果を整理すると、酸化HDLはミトコンドリアのATP産生や呼吸能を低下させることを見いだした。このことは先行実験の結果であるミトコンドリアの形態の変化と一致する結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリアに特異的に局在する脂質「カルジオリピン」及びその前駆物質の「モノリゾカルジオリピン」はそれぞれ4種類、3種類の脂肪酸が結合する脂質で、そのプロフィール異常はミトコンドリア機能低下を表す。そこで当研究室で機器及び測定系を保有するOrbitrap 液体クロマトグラフィー質量分析計によるリピドミクス解析で、カルジオリピン及びモノリゾカルジオリピンのプロフィールを調査する。並行して、Real-time PCR及びWestern blottingを駆使してカルジオリピンの生合成やカルジオリピンのRemodeling (CL内の脂肪酸の交換によるCLの成熟化の過程のこと)に関わる遺伝子の発現量解析とそのパスウェイを評価する。 具体的な計画としては、ヒト肝培養細胞C3Aを24-well plateの各ウェルに播種し、24時間銅酸化させた酸化HDLまたは未酸化HDLまたはPBSを培養液に混和し、それらを各ウェルへ添加し、24時間刺激後に細胞を回収する。その細胞から脂質を抽出してリピドミクス解析を行う。並行して、同様の条件にて刺激を行った細胞を回収してRNAあるいはタンパク質を精製してReal-time PCR及びWestern blottingにおいてミトコンドリア機能に関わる遺伝子及びタンパク質の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担者の研究進捗状況に応じて生じた。コロナ禍の影響により制約を受けたため執行できなかった。従って、次年度以降に執行することを予定する。
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