腸内細菌は食事、体質、生活習慣などに応じて個人ごとに異なって形成される。良好な腸内環境の保ち方や腸内環境が乱れたときの適切な対応法が個人ごとに分かれば、効率の良い健康管理につながると考えられる。当研究室では、糞便に含まれる腸内細菌を培養することで個人の腸内環境を模し、その培養環境に食素材を加えることで機能性評価を行っている。しかしながら、腸内環境は頑強性を備えているため、食素材添加と未添加(対照)との違いが検出しづらい。本研究では、腸内環境を意図的に撹乱させた培養条件を用いることで、プレバイオティクス素材の有効性をより明確に評価できる試験系の構築を目指している。 今年度は、マクロライド系抗生物質を用いた重度な撹乱が腸内環境に与える影響を調査した(健常被験者、n=6)。嫌気GAM培地に生理食塩水に懸濁した糞便溶液を播種し培養を開始した。DMSOに溶解した抗生物質(対照はDMSOのみ)を培養6時間後に投与し引き続き培養した。48時間後培養液についてpHの経時変化、短鎖脂肪酸解析、Bifidobacterium属数測定、菌叢解析を実施した。培養液pHは、培養約8時間以降から抗生物質投与による影響、具体的にはpH遷移の遅延、pH遷移パターンの変形が観察された。短鎖脂肪酸解析では酪酸産生量の有意な減少が見られた。定量PCR解析では6名中5名の被験者においてBifidobacterium属が減少していた。菌叢解析ではShannon indexスコアの有意な減少、Bacteroidaceaeの増加傾向(p=0.0625)Lachnospiraceaeの減少傾向 (p=0.0937)が観察された。抗生物質投与により菌叢構成が撹乱し、腸内細菌叢が産生する短鎖脂肪酸の組成に影響を与えていることが示された。
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