研究実績の概要 |
フェロトーシス阻害剤の特徴づけとして以下の実績を発表した。 1. 我々は、N,N-ジメチルアニリン誘導体GIF-2114、GIF-2115が海馬神経由来のHT22細胞において、従来の抗酸化物質とは全く異なる機構でフェロトーシスを阻害することを報告している。フェロトーシスはアポトーシスやネクローシスとは細胞死に至る機構が異なることから、N,N-ジメチルアニリン誘導体はフェロトーシスに特異的であると推察できる。今年度は、N,N-ジメチルアニリン誘導体がロテノン誘導性の酸化ストレスによるアポトーシスを阻害しないことを報告した。ロテノンはミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの阻害剤で、ミトコンドリアの膜電位を低下させ活性酸素種を増加させる。その結果、核の断片化を伴う典型的なアポトーシスが誘導されるが、N,N-ジメチルアニリン誘導体はこれらいずれにも影響を与えず、活性酸素種の増加を伴う酸化ストレスによるアポトーシスは阻害しなかった (Hirata et al., Eur J Pharmacol 928, 175119, 2022)。この結果は、フェロトーシスとアポトーシスは細胞死の機構が異なることを裏付けている。 2. ハロペリドールは統合失調症の治療薬であるが、GIF-2114、GIF-2115と極めて類似した機構でフェロトーシスを阻害する強力なフェロトーシス阻害剤であることが明らかとなった。すなわち、ハロペリドールは、後期エンドソーム/リソソームに集積し鉄イオンと反応することにより、0.01 μMという低濃度でフェロトーシスを阻害する。ハロペリドールは、GIF-2114、GIF-2115とは構造が全く異なることから、共通の機構で作用する未知、既知の化合物の存在が示唆される (Hirata et al., ACS Chem Neurosci 13, 2719, 2022)。
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