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2022 年度 実施状況報告書

新規の抗酸化機構に基づくフェロトーシス阻害剤の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22K11824
研究機関岐阜大学

研究代表者

平田 洋子  岐阜大学, 工学部, 教授 (50271523)

研究分担者 竹森 洋  岐阜大学, 工学部, 教授 (90273672)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードフェロトーシス / 酸化ストレス / 鉄イオン / オキシトーシス / 蛍光プローブ
研究実績の概要

フェロトーシス阻害剤の特徴づけとして以下の実績を発表した。
1. 我々は、N,N-ジメチルアニリン誘導体GIF-2114、GIF-2115が海馬神経由来のHT22細胞において、従来の抗酸化物質とは全く異なる機構でフェロトーシスを阻害することを報告している。フェロトーシスはアポトーシスやネクローシスとは細胞死に至る機構が異なることから、N,N-ジメチルアニリン誘導体はフェロトーシスに特異的であると推察できる。今年度は、N,N-ジメチルアニリン誘導体がロテノン誘導性の酸化ストレスによるアポトーシスを阻害しないことを報告した。ロテノンはミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの阻害剤で、ミトコンドリアの膜電位を低下させ活性酸素種を増加させる。その結果、核の断片化を伴う典型的なアポトーシスが誘導されるが、N,N-ジメチルアニリン誘導体はこれらいずれにも影響を与えず、活性酸素種の増加を伴う酸化ストレスによるアポトーシスは阻害しなかった (Hirata et al., Eur J Pharmacol 928, 175119, 2022)。この結果は、フェロトーシスとアポトーシスは細胞死の機構が異なることを裏付けている。
2. ハロペリドールは統合失調症の治療薬であるが、GIF-2114、GIF-2115と極めて類似した機構でフェロトーシスを阻害する強力なフェロトーシス阻害剤であることが明らかとなった。すなわち、ハロペリドールは、後期エンドソーム/リソソームに集積し鉄イオンと反応することにより、0.01 μMという低濃度でフェロトーシスを阻害する。ハロペリドールは、GIF-2114、GIF-2115とは構造が全く異なることから、共通の機構で作用する未知、既知の化合物の存在が示唆される (Hirata et al., ACS Chem Neurosci 13, 2719, 2022)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1. GIF-2115の構造類自体 (GIF-2027、GIF-2228-r) およびそれぞれの蛍光プローブ (GIF-2261、GIF-2255) を作製し、酸化ストレス保護活性(フェロトーシス阻害活性)、後期エンドソーム/リソソームへの集積性、Fe2+濃度への作用を比較検討した。その結果、N-メチル基を持たないがジメチルアミノ基を持つGIF-2027の蛍光プローブGIF-2261は、リソソームへの集積性が著しく低下したが、フェロトーシス阻害活性を維持した。一方、N-メチル基を持つがジメチルアミノ基をもたないGIF-2228-rではフェロトーシス阻害活性および鉄イオンとの反応性はほぼ消失した。以上の結果から後期エンドソーム/リソソーム集積性にはN-メチル基が必須でフェロトーシス阻害作用に後期エンドソーム/リソソームへの細胞内局在化が重要であることが明らかとなった。
2. GIF-2114/GIF-2115応答性細胞内分子を、鉄イオンを中心に整理した。
In vitroにおけるFe2+特異的蛍光プローブFerroOrangeを用いたアッセイ系(無細胞系)を用いて鉄イオンとGIF-2114、GIF-2115の直接の反応性を検証した。GIF-2114、GIF-2115は、どちらも典型的な鉄イオンキレート剤のデフェロキサミンよりも強く鉄イオンと反応した。GIF-2114、GIF-2115は鉄イオンとのキレート構造は取れないので、鉄イオンを配位することによりその作用を抑制すると考えられる。GIF-2027はGIF-2115と同様に鉄イオンと反応したが、GIF-2228-rでは鉄イオンとの反応性は消失した。これらの結果から、GIF化合物応答性細胞内分子は鉄イオンであり、GIF化合物のジメチルアミノ基に起因するものであることが示唆された。

今後の研究の推進方策

1. GIF-2114/GIF-2115応答性細胞内分子の鉄イオンは、トランスフェリンに結合した3価鉄イオンがトランスフェリン受容体を介したエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、リソソームでSteap3還元酵素により2価鉄イオンに還元され、フェリチンと結合して細胞質に貯蔵される。フェロトーシスによる細胞死のシグナル伝達におけるSteap3還元酵素の役割を明らかにするとともに、GIF-2114、GIF-2115がリソソームに集積し鉄イオンと反応する過程に、Steap3還元酵素が関与するかどうかを検証する。Steap3還元酵素をノックアウトするために、CRISPR/Cas9システムを用いる。我々はこれまでに、CRISPR/Cas9 KO プラスミド/HDR プラスミド(Santa Cruz社)を用いて、ヘムオキシゲナーゼー1、Nrf2、プロテインキナーゼR、シグマ1受容体などをノックアウトしたHT22細胞の樹立に成功しており、同様にSteap3還元酵素ノックアウト細胞を得ることが期待できる。
2. 2価鉄イオンは、過酸化水素を毒性の高いヒドロキシラジカルへ変換するフェントン反応を触媒することにより、フェロトーシスを増悪すると考えられている。しかし、フェロトーシスにおける3価鉄イオンの役割については明確になっていない。予備実験では2価鉄および3価鉄イオンは同程度にフェロトーシスを増悪した。鉄イオンの活性酸素種への影響、3価鉄イオン毒性へのSteap3還元酵素の関与などを検証することにより、鉄イオンがどのようにフェロトーシスを増悪するのかを明らかにする。
3. GIF-2115の脳移行性を検証する。マウスに化合物を腹腔内投与し脳組織(大脳、中脳、脳幹、小脳)を取り出し、GIF-2115の濃度を質量分析法により測定する。

次年度使用額が生じた理由

国際学会(北米神経科学会、サンディエゴ、2022年11月)に参加を予定していたが、コロナ禍など諸般の事情により見合わせたため、旅費を使用しなかった。令和5年度の北米神経科学会(ワシントンDC、2023年11月)もしくは令和6年度に使用することとする。物品費はプラスミドなど高額な物品の購入を次年度に見送ったため、次年度使用額が生じた。今年度、購入予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 産業財産権 (1件)

  • [雑誌論文] Effect of ferroptosis inhibitors oxindole-curcumin hybrid compound and N,N-dimethylaniline derivatives on rotenone-induced oxidative stress2022

    • 著者名/発表者名
      Hirata Yoko、Okazaki Ruidai、Sato Mina、Oh-hashi Kentaro、Takemori Hiroshi、Furuta Kyoji
    • 雑誌名

      European Journal of Pharmacology

      巻: 928 ページ: 175119~175119

    • DOI

      10.1016/j.ejphar.2022.175119

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Haloperidol Prevents Oxytosis/Ferroptosis by Targeting Lysosomal Ferrous Ions in a Manner Independent of Dopamine D2 and Sigma-1 Receptors2022

    • 著者名/発表者名
      Hirata Yoko、Oka Kohei、Yamamoto Shotaro、Watanabe Hiroki、Oh-hashi Kentaro、Hirayama Tasuku、Nagasawa Hideko、Takemori Hiroshi、Furuta Kyoji
    • 雑誌名

      ACS Chemical Neuroscience

      巻: 13 ページ: 2719~2727

    • DOI

      10.1021/acschemneuro.2c00398

    • 査読あり
  • [産業財産権] リソソーム局在性鉄イオンキレート剤、リソソーム局在性フェロトーシス阻害剤、抗酸化剤細胞保護方法2022

    • 発明者名
      森田洋子、古田享史、竹森洋
    • 権利者名
      森田洋子、古田享史、竹森洋
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2022-129099

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公開日: 2023-12-25  

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