研究実績の概要 |
1.N,N-ジメチルアニリン誘導体GIF-2114、GIF-2115は海馬由来HT22細胞において、従来の抗酸化物質とは全く異なる機構でフェロトーシスを阻害するフェロトーシス特異的な阻害剤である。酸化ストレス保護活性(抗フェロトーシス活性)、後期エンドソーム/リソソームへの集積性、Fe2+の補足作用に必要な構造を決定するために、GIF-2115の構造類似体およびそれぞれの蛍光プローブを創製し、比較検討した。その結果、抗フェロトーシス活性には、GIF-2115のN,N-ジメチルアニリン構造およびN-メチル基が必須であることが明らかとなった(Hirata et al., RSC Adv, 13, 32276, 2023)。同様のN,N-ジメチルアニリン構造およびN-メチル基はGIF-2114にも含まれているため、この特徴はGIF-2114とGIF-2115に共通であると示唆される。 2. ケルセチンおよびレスベラトロールは典型的なファイトケミカルであり酸化ストレスを抑制することが報告されている。ケルセチンは鉄イオンとキレート構造をとることができるが、レスベラトロールは鉄イオンとキレート構造をとる可能性は低い。Gaussian 16ソフトを用いた密度汎関数理論 (density functional theory: DFT)によりケルセチンおよびレスベラトロールは共にFe2+と安定な複合体を形成することが示され、GIF-2114/2115と類似した機構でフェロトーシスを阻害するフェロトーシス阻害剤であることを明らかにした。 (Kato et al., Food Chem Toxicol 172, 113586, 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、GIF-2115 (GIF-2197-rのS体)の構造類似体 GIF-2027、GIF-2228-r、およびそれぞれの蛍光プローブGIF-2261-r、GIF-2255-rを創製し、酸化ストレス保護活性(抗フェロトーシス活性)、後期エンドソーム/リソソームへの集積性、Fe2+の補足作用を比較検討した。その結果、抗フェロトーシス活性にはGIF-2115のN,N-ジメチル構造、後期エンドソーム/リソソームへの集積性にはN-メチル基が必要であることが示唆された。今年度は、N,N-ジメチルアニリン構造およびN-メチル基の両方をもたないGIF-2227-rおよびその蛍光プローブGIF-2289-rを創製し、昨年度得られた結果を裏付けた。さらに、鉄イオン捕捉についてGIF-2115およびGIF-2027はキレート構造をとる可能性は低いため、Gaussian 16ソフトを用いた密度汎関数理論 (density functional theory: DFT)によりそれぞれの化合物とFe2+の複合体安定化エネルギー (ΔE) を計算した。その結果は、GIF-2197-r (ΔE = -13.0 kcal/mol)およびGIF-2027 (ΔE = -8.6 kcal/mol)であったのに比べ、GIF-2228-r (ΔE = +3.6 kcal/mol)およびGIF-2227-r (ΔE = +8.2 kcal/mol)であり、細胞・生化学実験の結果と一致した。これらの数値からFe2+はGIF-2115およびGIF-2027に配位 (coordination) することにより鉄依存性フェロトーシスを抑制することが示された。これらの知見は RSC Adv 13, 33276 (2023)に公表した。
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