研究課題/領域番号 |
22K11838
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
五十嵐 信智 星薬科大学, 薬学部, 講師 (40409363)
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研究分担者 |
岩崎 雄介 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (10409360)
今 理紗子 星薬科大学, 薬学部, 講師 (90779943)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / アトピー性皮膚炎 |
研究実績の概要 |
「食」の変化は、皮膚疾患の発症・増悪に影響することが古くから謳われているが、その科学的エビデンスは少ない。本研究課題では、腸内細菌が皮膚機能に影響を及ぼすとする我々の知見、ならびに食の変化により腸内細菌叢が変動するとの過去の知見をもとに、「食」-「腸内細菌」-「皮膚疾患」のネットワークの構築を目指した。本研究成果は、皮膚疾患に対する新たな治療・予防戦略を「食」の分野から提言することが可能であると考えられ、非常に意義深い。 令和4年度は、上記目的を遂行するにあたり、アトピー性皮膚炎モデルマウスを作製し、その病態や皮膚機能調節遺伝子に及ぼす食の影響を解析するとともに、腸内細菌叢の変化を調べた。その結果、アトピー性皮膚炎モデルマウスに高脂肪食を摂取させると、腸内細菌叢が大きく変動し、この際、アトピー性皮膚炎の病態が増悪することが明らかとなった。 令和5年度は、高脂肪食摂取によるアトピー性皮膚炎の増悪に、腸内細菌叢の変動が関与しているかどうかを調べた。その結果、高脂肪食を摂取したマウスの糞便を無菌マウスに処置し、アトピー性皮膚炎を誘発させると、普通食を摂取したマウスの糞便を移植した無菌マウスと比べて、皮膚炎症度スコアが上昇し、皮膚における炎症性サイトカインの増加も認められた。さらに、アトピー性皮膚炎に関連する遺伝子群(フィラグリン、IL-4、TSLP、TARC)の発現変化も確認できた。したがって、高脂肪食によるアトピー性皮膚炎の増悪には、腸内細菌叢の変動が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度では、アトピー性皮膚炎モデルマウスに高脂肪食を摂取させると、腸内細菌叢が大きく変動し、この際、アトピー性皮膚炎の病態が増悪することを明らかにした。令和5年度では、上記知見が腸内細菌叢の変動に起因しているかどうかを調べた。具体的には、普通食(ND)あるいは高脂肪食(HFD)を摂取したマウスの糞便を無菌マウスに処置したノトバイオートマウスを作製し、これらマウスに対してアトピー性皮膚炎を誘発させた際の病態を解析した。その結果、HFD由来の糞便を移植した無菌マウスでは、ND由来の糞便を移植した無菌マウスに比べて、皮膚炎症度スコアは高値を示し、皮膚の潰瘍形成も見られた。また、この際、皮膚の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6)の発現量も上昇し、皮膚炎症の増悪も確認できた。以上のことから、高脂肪食摂取によるアトピー性皮膚炎の増悪には、腸内細菌叢の変動が関与している可能性が強く示唆された。今後、腸内細菌が産生する物質に焦点を当て、アトピー性皮膚炎増悪関連物質の探索を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度および令和5年度の結果から、高脂肪食摂取によりアトピー性皮膚炎が増悪することが明らかとなり、この原因の一つとして、腸内細菌叢の変動が関与している可能性が強く示唆された。しかしながら、腸内細菌の変化が、どのようにして皮膚疾患の増悪を引き起こしているかは不明である。そこで今後、腸内細菌代謝産物(胆汁酸、短鎖脂肪酸など)に焦点を当て、アトピー性皮膚炎増悪関連物質を探索する。具体的には、まず、過去の報告をもとに、アトピー性皮膚炎様細胞モデルを構築する。続いて、この細胞モデルに腸内細菌代謝産物を添加した際の遺伝子発現変化を調べ、候補物質を選定する。最終的には、候補物質によるアトピー性皮膚炎増悪の分子メカニズムを解析し、その関連性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究計画に基づいて、おおむね順調に進展したが、学事・学生指導の兼ね合いから、次年度使用額が生じた。今年度使用しきれなかった研究費は、次年度、ウェスタンブロッティングによるタンパク質解析や細胞実験系の構築、メタボローム解析などに用いる。また、国際誌への論文投稿を目指し、研究費の一部はその投稿料に充てる。
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