研究課題/領域番号 |
22K11848
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
笹島 仁 旭川医科大学, 医学部, 講師 (00374562)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 神経変性 / フェロトーシス / ドパミン / ミトコンドリアストレス / 鉄代謝 / 活性酸素 / モノアミン |
研究実績の概要 |
これまでに、家族性パーキンソン病の責任遺伝子としてミトコンドリア品質管理に関わる遺伝子が多く同定されてる。このため、ミトコンドリアの機能異常や活性低下、これに付随する活性酸素が、パーキンソン病におけるドパミン神経変性の要因のひとつではないかと長く推測されてきたが、ドパミン神経でのみ特異的な細胞死をもたらす機構は未だに判然としない。罹患者の多くを占める孤発性パーキンソン病の原因は依然として不明であり、ドパミン神経細胞の脆弱性を詳らかにすることは、パーキンソン病予防のためのドパミン神経細胞保護方法の探索につながる。 また、ロテノンやMPTPといったミトコンドリア呼吸鎖阻害剤を動物に投与すると、パーキンソン病同様に中脳黒質のドパミン神経が脱落することから、ミトコンドリアの異常がドパミン神経毒性につながることが判明しているが、他の神経細胞は体細胞に比して、ドパミン神経に固有の脆弱性は明らかになっていない。これまでの研究から、既存の活性酸素除去薬は、ミトコンドリアストレス誘導性のドパミン神経細胞死に奏功せず、新たなドパミン神経保護方法が求められる。 本研究では、毒性閾値ぎりぎりのミトコンドリア呼吸鎖複合体阻害剤によるドパミン特異的細胞死は、ドパミン合成阻害剤、モノアミン酸化酵素阻害剤、鉄キレート剤、オートファジー阻害剤によって抑制しうるという従前研究から、ドパミン神経変性における細胞内鉄イオンの関与を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来研究から、ドパミン代謝とミトコンドリア呼吸はいずれも活性酸素を生じ、ドパミン神経変性における負のシナジー因子と目されてきたが、単に既存の抗酸化物質を添加しても、神経変性は阻止されない。これは、ラジカル発生分子が古典的な活性酸素分子種に留まらない可能性を示唆している。ミトコンドリアは鉄イオンを活性中心とする酵素により呼吸代謝を回転し膜電位を維持しており、代謝回転の不足あるいは膜電位の低下は、細胞質鉄イオンプールからの鉄の動員が惹起される可能性がある。しかし、細胞質鉄イオンの氾濫は、脂質過酸化反応の連鎖によりフェロトーシスを誘導する。そこで本研究では、ミトコンドリアストレス下での細胞内鉄イオンの挙動について視覚化を試みたが、得られた蛍光像はファジーで帰結が難しいものであった。そこで現在、鉄依存的オートファジーであるフェリチノファジーのマーカーとなる蛍光標識NCOA4を作成し、その挙動を観察している。NCOA4は、通常の細胞内環境ではHERC2によりユビキチン化され、細胞内発現レベルは低く抑えられる。本研究では、ロテノン添加時に、蛍光標識NCOA4が安定化し、フェリチンと同様の局在を示したことから、ミトコンドリア呼吸鎖の阻害、あるいはミトコンドリア膜電位の低下が、フェリチノファジーにより細胞質の鉄プールからの鉄動員を誘引することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
ドパミン神経細胞様に分化したPC12細胞を用いた顕鏡観察において、ミトコンドリアストレス条件は、NCOA4の安定化、フェリチンとの共局在が示されたが、個々の細胞で反応までの時間にばらつきがあり、最適な時間経過をとらえきれていない。そのため、今後はミトコンドリアストレスの時間経過に伴うNCOA4のタンパク質レベルを生化学的に解析し、細胞集団としての挙動を観察する。 また、これまでの研究によりドパミンの生合成、酸化代謝の阻害は、ミトコンドリアストレス誘導性細胞死を抑制することが判明していることから、未分化PC12細胞においてドパミン生合成酵素、酸化酵素を過剰発現し、ドパミンストレス耐性、およびフェロトーシス誘導性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬価格の変更により生じた差額であるが、次年度の消耗品購入費に充当する。
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