研究実績の概要 |
本研究は、小児外科疾患の周術期において、プロバイオティクス投与による腸内環境の改善が術後合併症を低減し得るという仮説の検証を目的としている。 胆道閉鎖症に対する葛西手術においては、周術期は手術の侵襲に加えて、高容量かつ長期に及ぶステロイド投与や抗菌薬投与など、腸内細菌叢に悪影響を与える因子が多く存在する。一旦減黄が得られた症例においても、胆汁鬱滞の再燃や胆管炎、門脈圧亢進症に伴う脾腫や胃食道静脈瘤など、長期的な経過観察および加療を要する。また、胆汁鬱滞が増悪し、肝硬変に至るような症例では肝移植が行われる。肝移植においても、周術期にはステロイドや抗菌薬投与が行われ、さらには永続的に免疫抑制剤の投与が必要となる。 プロバイオティクス投与による介入研究を行う前段階として、胆道閉鎖症の自己肝生存症例、移植肝生存症例、健常者の糞便を採取し、腸内細菌叢および糞便有機酸濃度の解析を行った。自己肝生存症例、移植肝生存症例のいずれにおいても、健常者に比べて、総菌数および偏性嫌気性菌 (Bacteroides fragilis group, Bifidobacteriumなど) の低下を認め、病原性のあるClostridioides difficile, Enterobacteriaceae, Enterococcusの増加を認めた。また、移植肝生存症例では、血液生化学検査で肝・胆道系酵素がいずれも正常値であったにも関わらず、菌叢の乱れ (dysbiosis) を認めており、葛西手術や肝移植の周術期の侵襲 (手術、ステロイド・免疫抑制剤・抗菌薬投与) がその後のdysbiosisの継続に影響していることが示唆された。
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