研究課題/領域番号 |
22K11878
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
稲福 征志 琉球大学, 農学部, 准教授 (90457458)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | BCG / 肥満 / 耐糖能 / 糖尿病 / 自然免疫記憶 |
研究実績の概要 |
これまでに「自然免疫系」には存在しないものとされてきた免疫記憶の存在が支持されてきており,自然免疫記憶(Innate immune memory/Trained immunity)として免疫動態に大きな影響を及ぼすことが明らかとなっている。この自然免疫記憶は,結核に対するワクチンBCG菌株の接種によっても誘導されることが明らかにされており,骨髄系前駆細胞にエピジェネティックスな変化が記憶されて,それらから分化する自然免疫系細胞の活性化が維持(自然免疫記憶)される。本申請者は,これまでにBCG接種によってマウスの脂肪肝や耐糖能異常の発症が抑制されることを確認しており,更には,その影響が誘導確立された自然免疫記憶によって齎されている可能性を見出している。肥満関連病態の進行と免疫系が深く関連していることは周知のことであるが,既に確立された自然免疫記憶の耐糖能異常発症への関与について検証した報告はない。従って,本研究は上記の現象に関わる自然免疫記憶の深層メカニズムを明確にして,耐糖能異常の発症における自然免疫記憶の影響に関する新たな知見を得ることを目的とする。 本年度においては,BCG接種による耐糖能異常進行の抑制メカニズムについての基盤的情報を得るために,BCG接種・未接種マウスに高脂肪食を接種させた際の耐糖能の経時的変化を追跡して,耐糖能に差が生じる原因を血液生化学分析により検証した。また,次年度に向けての骨髄移植方法の最適化も同時に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高脂肪食摂食開始後10週目からBCG接種群における耐糖能異常発症遅延が認められ,飼育終了時(高脂肪食摂食開始20週目)までその現象は確認できた。この耐糖能評価においては,ブドウ糖負荷試験とインスリン負荷試験の両方を用いており,BCG接種の影響はブドウ糖負荷試験結果に大きく影響を与えていたが,インスリン負荷試験の結果には殆ど影響を与えていないことが明らかとなった。このことから,BCG接種は末梢組織のインスリン感受性には影響を与えるのではなく,耐糖能異常の発症に影響を与えることが示唆された。また,飼育終了後は,血液生化学パラメーター各種を測定したところ,BCG接種群の空腹時血糖値は有意な低値を,空腹時インスリン濃度は低値を示す傾向にあった。また,これらの結果より算出される,HOMA-IRはBCG接種群が有意に低かったが,HOMA-βについては両群ほぼ同値であった。従って,これらの結果より,BCG接種はインスリン抵抗性に影響を与えいることが示された。この考察は,インスリン負荷試験から導き出されるものとは一致しないものであるが,BCG接種が耐糖能に与える影響は血糖値上昇にかかわる機構の異常が関与している可能性が浮かび上がった。従って,血糖値上昇にかかわる様々な機構について検証する必要があると考えられる。また,当該実験においては,コンジェニックマーカーCD45分子が異なるコンジェニックマウスを用いた骨髄移植実験を実施する必要があるが,これまでに報告されているBuslfan処理による骨髄破壊方法では骨髄入替え効率が50%程度とあまり高くなかったので,本年度においては同効率が80%以上となるBuslfan処理方法の確立から始めたため,当該研究の進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度においては,BCG接種による耐糖能異常の発症の原因となるのが末梢組織のインスリン感受性に影響を与えるわけではなく,血糖値上昇に関わる生体機構の異常が関与している可能性が示された。従って,血中のグルカゴンなどのホルモン濃度を解析するとともに,膵臓の病理組織学的解析を進めることで,その詳細を明らかにできると考えられる。また,当該現象とBCG接種による自然免疫記憶との関連性を見出すために,コンジェニックマーカーCD45分子が異なるコンジェニックマウス(CD45.1とCD45.2)を用いた骨髄移植実験を実施する必要がある。この為に,今年度においては最適なBuslfan処理法を確立できたため,次年度においては,BCG接種したマウスの骨髄由来細胞を骨髄破壊したマウスにした際の耐糖能の変動について確認する。
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