研究課題/領域番号 |
22K11886
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
松本 綾子 順天堂大学, 大学院スポーツ健康科学研究科, 特任助教 (20833825)
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研究分担者 |
松本 顕 順天堂大学, 医学部, 教授 (40229539)
伊藤 太一 九州大学, 基幹教育院, 助教 (20769765)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 老化 / 寿命 / 性差 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
ヒトを含む多くの生物でメスはオスより長寿である。本研究では、モデル生物であるショウジョウバエを用い、寿命の性差に関わる遺伝子を同定することで、最終的にはメス長寿化の原因遺伝子(マスターキー遺伝子)の同定を目指している。 実験には、25℃で飼育したwhite(BL#5905)系統を用いた。BL#5905系統は、遺伝子導入を行う際の系統である。また、この系統では腫瘍形成が起きず、その影響を除外できるメリットもある。 初年度である今年度は、すでに遺伝子発現プロファイルを取得済みのオスとの比較を行うため、メスの脳のサンプリングおよび次世代シークエンスによる遺伝子発現量の網羅的な同定を行った。サンプリングは、オスにあわせた羽化後1週齢と10週齢に加えて13週齢でも行った。13週齢のメスは、オスの10週齢とほぼ同じ生存率を示す。また、概日時計の遺伝子発現への影響を考慮して、明暗サイクル下で4時間ごと(1日6サンプル)に2日分、合計36サンプルを得た。1サンプル当たり、80匹から110匹から脳を解剖して取り出し、Total RNAを抽出して次世代シークエンスを行うことで、データベース記載の17,868遺伝子に関して脳での発現プロファイルを得ることができた。さらに、得られたプロファイルを使って、すでに脳での発現が詳細に調べられている時計遺伝子(period、clock、timeless、cryptochromeなど)の発現を調べたところ、いずれも明瞭な概日リズムが確認され、発現プロファイルの信頼性が確認できた。現在、すでに老化との関連が報告されている遺伝子を中心に、雌雄で老化に伴う遺伝子発現に違いの見られる遺伝子の探索行っており、今後解析を進める遺伝子の絞り込みを進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、老化した雌雄のハエで遺伝子発現を比較する必要から、脳のサンプリングに多大な時間と手間を要した。まずは、オスに比べてメスは寿命が長く、ハエを数か月の長期間にわたって飼育する必要があった。また、老化の目安であるオスの10週齢、メスの13週齢は、生存率が20 %以下にまで低下するため、予め採取時のハエの数の減少を考慮した大量飼育の必要に迫られた。さらに、本研究では、ハエの頭部ではなく脳に限定した遺伝子解析を目指し、質・量ともに十分な量のtotal RNAを確保する必要があった。このため、1サンプル当たり80個以上の脳を準備が必要であった。ショウジョウバエは体長が3 mmと小型で、頭部は1 mmも満たない。脳は、重量比で脳の10分の1程度と言われており、脳の採取には顕微鏡下での頭部の解剖が必須である。そのため、解剖のステップにおいても時間と手間を要した。サンプリングのタイミングに関しても、遺伝子発現に対する概日リズムの影響を考慮し、さらに再現性を担保する目的で、4時間おき(1日6サンプル)2日間のサンプリングを行った。週齢ごとに12サンプル、トータル36サンプルを用いて次世代シークエンスで解析することで、信頼に足るサンプル数を確保した。その結果、実際に得られた遺伝子発現プロファイルを用いて時計遺伝子の発現を調べたところ、非常に明瞭な概日リズムが観察されており、発現プロファイルの高い信頼性を担保することができた。 以上、本研究の困難さ・難易度から考えて、初年度の進捗状況としては、概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度である今年度は、羽化後1週齢、10週齢、13週齢のメスの脳をそれぞれ4時間ごと(1日6サンプル)に2日間採取し、Total RNAを抽出して、次世代シークエンスを行うことで、メスでの老化に伴う遺伝子発現プロファイルを得ることができた。現在、得られたプロファイルを、すでに取得済みの雄と比較することで、雌雄で老化に伴う発現パターンに違いがみられる遺伝子の検索を進めている。 今年度も引き続き、メス長寿化マスターキー遺伝子の候補遺伝子の絞り込みを進める予定である。今後は、発現パターンの比較だけでなく、遺伝子データーベースを活用することで、推定される遺伝子機能(例えば転写因子かどうかなど)からも候補の絞り込みを行う。さらに、雌雄のどちらかのみで、老化による発現量の変化の見られる遺伝子などを細かく分類する。着目する遺伝子グループについては、Gene ontology (GO)解析やPathway解析、上流解析などのバイオインフォ解析を進めていく予定である。候補遺伝子をある程度絞り込んだ後に、突然変異体の有無を調べ、分離された変異体があればストックセンターから取り寄せるなどして、行動解析の準備を進める予定である。 さらに、本年度は、次世代シークエンスで得られた発現プロファイルの定量的PCRでの確認も行う。メスのみでなく、オスでも解析を行って比較予定であり、雌雄の脳のサンプリングが必要となる。そのため、再びサンプリング用の大量飼育と脳の解剖を進めつつある。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度である今年度は、遺伝子発現プロファイルを取得済みのオスとの比較を行うため、メスの脳のサンプリングおよび次世代シークエンスによる遺伝子の網羅的な同定を行った。そのため、今年度予算の多くを業務委託費となる次世代シークエンス費用とその解析費用に充てることになった。交渉の結果、当初の見積額よりディスカウントでき、予算に若干の余りが生じた。 次年度は、バイオインフォ解析と並行して、メスだけでなくオスの脳を用いた定量的PCRを行うことで、次世代シークエンスで得られた遺伝子発現プロファイルの再現性を調べる予定である。繰り越した予算は、プライマー作製費などに充てる予定である。
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