研究課題/領域番号 |
22K11892
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
田村 行識 神戸学院大学, 栄養学部, 講師 (40580262)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 亜鉛シグナル / 糖尿病 / 筋萎縮 / 亜鉛トランスポーター / ゴルジ体 / オートファジー / ユビキチン・プロテアソーム系 / マイオカイン |
研究実績の概要 |
糖尿病病態では、筋蛋白質分解の亢進を主要な原因とする筋萎縮が引き起こされるが、その詳細な病態機序は不明である。これまでの私共の研究において、細胞内亜鉛動態を制御する亜鉛トランスポーターの発現変化が、筋細胞の蛋白質分解系を亢進させる可能性を見出してきた。本研究では、亜鉛トランスポーターの筋機能における役割と、糖尿病に伴う筋萎縮との関連性を明らかにすることを目的とし、本年度は、ゴルジ体に亜鉛を流入させる亜鉛トランスポーターZnT6に注目して、糖尿病マウスの筋萎縮の進行に伴うその発現変化と、筋細胞におけるZnT6の機能解析を行った。 マウスにストレプトゾトシンを投与して糖尿病を誘発した2週間後(2w)と4週間後(4w)の脛骨周囲筋肉量の測定と腓腹筋組織の解析を行った結果、正常マウスに比較して2wから筋肉量の減少と筋線維の萎縮がみられ、4wにはさらなる筋肉量の減少が認められた。腓腹筋における筋蛋白質分解系の変化については、2wではオートファジーの亢進のみが、4wではオートファジーに加えてユビキチン・プロテアソーム系の亢進がみられた。また、腓腹筋組織における亜鉛トランスポーターの発現変化を網羅的に解析した結果、ZnT6の経時的な変発現低下がみられた。そこで、C2C12筋菅細胞においてZnT6ノックダウンの影響を検討した結果、ZnT6の発現抑制によってオートファジーの著明な亢進とともに筋菅径の有意な減少がみられ、さらに、筋蛋白質分解系を調節する転写因子FoxO1蛋白質のリン酸化の抑制がみられた。また、筋蛋白質の合成を抑制し、分解を亢進させるマイオカインであるMyostatinの蛋白質発現量の増加もみられた。これらのことから、ZnT6の発現低下によるゴルジ体の亜鉛動態の変化が、筋蛋白質の分解亢進とマイオカインの産生異常を引き起こすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の細胞レベルの検討において、筋細胞のゴルジ体への亜鉛流入に重要な亜鉛トランスポーターZnT6の発現低下が、筋蛋白質分解系の亢進とともに、マイオカインの産生異常を引き起こすことを見出すことができた。また、糖尿病マウスの筋萎縮の進行に伴ってZnT6の経時的な発現低下がみられたことから、糖尿病に伴う筋萎縮の病態において、ゴルジ体の亜鉛トランスポーター発現変化を伴う亜鉛動態の異常が関与している可能性が高く、本病態の機序解明に向けて前進したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討において、ゴルジ体に亜鉛を流入させる亜鉛トランスポーターの発現低下が筋機能を負に制御する可能性が示唆されたことから、今後は、糖尿病モデルマウスの筋組織およびZnT6をノックダウンしたC2C12筋管細胞におけるゴルジ体の量と機能(分泌経路に関わる蛋白質の発現など)の変化を評価したい。また、糖尿病病態においてゴルジ体の亜鉛トランスポーターの発現量が低下する機序についても検討を行っていく。具体的には、インスリン欠乏・インスリンシグナル障害、高血糖、炎症性サイトカイン、終末糖化産物(AGEs)、遊離脂肪酸などが筋細胞におけるゴルジ体の亜鉛トランスポーター発現と亜鉛動態に及ぼす影響を検討する予定である。
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