研究課題/領域番号 |
22K11919
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中尾 裕也 東京工業大学, 工学院, 教授 (40344048)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非線形振動子 / リミットサイクル / Koopman作用素 / 漸近位相・振幅 / 量子散逸系 |
研究実績の概要 |
大自由度非線形力学系に対するKoopman作用素論に基づく縮約理論の展開に関して、2022年度は以下のような研究を実施した。
(i) 量子散逸系の非線形振動子に対して、Koopman作用素論の観点から漸近位相の定義を試みた。以前の研究で、古典確率系の非線形振動子に対しては、系を記述するFokker-Planck作用素の随伴である後退Kolmogorov作用素が確率的なKoopman作用素であり、その実部が最も虚軸に近い複素数のペアに対応する固有関数を漸近位相と捉えられることを示していた。この考えを拡張して、系が量子的なLindblad型の(超)作用素で記述される場合について、その随伴(超)作用素がKoopman作用素であることを示し、その固有作用素を用いて漸近位相を定義できる可能性があることを示し、数値解析により量子van der Polモデルに関してこの考えが妥当性を持つことを示した。 (ii) 非線形振動子の測定データから、漸近位相と振幅を表す関数を推定する手法を提案した。これらの関数は、系のKoopman作用素の固有値と固有関数に対応し、動的モード分解法によってそれらをデータから推定できることは知られているが、実際に低次元の振動子でこれを実行すると、必ずしも推定精度が高くない場合があることが分かった。これを解決するために、固有値と固有関数を同時推定するのではなく、まず固有値に対応する振動数とFloquet指数を別途測定した上で、固有関数に対応する漸近位相と振幅関数を推定する方法を提案した。数値実験により、低次元の非線形振動子のモデルから得たデータから、データ量が十分にあるという条件下で、良好な精度で推定できることを確認した。
得られた成果は学会・研究会および論文にて公表した。その他、関連する複数の研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Koopman作用素論に基づく非線形ダイナミクスの解析、特に非線形振動子の縮約記述において重要な役割を持つ漸近位相と振幅を主な研究対象として研究を進め、上記を含む複数の成果を得た。2022年度は合計7本の論文を国際学術誌に公表した他、国際会議や研究会でも複数回の発表を実施し、研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
Koopman作用素論に基づく非線形ダイナミクスの解析をさらに推し進める。特に、量子散逸系における漸近位相・振幅関数の物理的な妥当性の検証、測定データから求めたKoopman固有値・固有関数に基づく縮約モデルの構築とその妥当性の検証、より大自由度の系の解析などを発展させてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は新型コロナウイルスのため複数の国際会議がオンラインとなった他、予定していた海外出張等も全ては実施できず、旅費が余ったため。2023年度はコロナによる旅行の制限が撤廃され、また多くの国際会議の対面での開催が見込まれるため、それらの国際会議での研究発表と情報収集のために使用する。
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