研究課題/領域番号 |
22K11939
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
前園 宜彦 中央大学, 理工学部, 教授 (30173701)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カーネル型分布関数推定 / エクスペクタイル / 確率点推定 / エッジワース展開 / 漸近平均二乗誤差 |
研究実績の概要 |
ノンパラメトリック統計の主要な柱となっているカーネル型推測法の研究を行い、以下の成果を得ることができた。(1)カーネル型推測法の中で分布関数推定量を利用した統計量の活用法を研究し、経験分布関数の逆関数では不可能であった滑らかな確率点推定量の理論的性質を明らかにすることに成功した。(2)関連してこれまでに利用されてきたカーネル関数を組み込む確率点推定量との同値性を示すことに成功した。この方法は直感的にはすぐに導入できるものであるが、理論的な性質の解明は難しく、これまでに理論的な成果は得られていなかった。その推定量の漸近平均二乗誤差を理論的に求めることに成功した。また従来提案されていたカーネル型確率点推定量と今回考察した統計量が一次オーダーの意味では漸近的に同等であることを理論的に示すことに成功した。(3)確率点は様々な分野でリスクの評価に利用されている。この元になる分布関数推定量の性質は、推定量を組み込む様々な指標に利用すると高精度の推測結果をもたらすことが期待できる。(4)さらに金融工学において重要なリスク尺度であるエクスペクタイルのカーネル型推定量の漸近的な性質を研究し、信頼区間や統計的検定を行うときに必要になる統計量の分布関数の高次漸近近似であるエッジワース展開を求めることに成功した。 これらのの結果は世界に先駆けてのもので、経験分布関数をカーネル型推定量に置き換えることにより、滑らかで高精度の推測結果を得ることができて、関連する分野への波及効果も期待できる。現在これらの成果は国際誌に投稿準備中である。得られた成果は、学会及び研究集会で発表し、優れた成果であるとの評価も得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画と比較して、おおむね順調に研究は進展している。令和4年度においてカーネル型分布関数推定量を直接利用した確率点推定量の理論的な性質の導出に成功している。またサポートが有界の密度関数を持つ分布関数推定量の境界バイアスを修正する手法の開発にも成功しており、これらを利用した統計的推測問題での精度の改良が得られている。特に生存時間解析に対しての応用を研究し、従来の方法と比較して滑らかさの面と平均二乗誤差の両面において優れたものであることを示すことに成功している。このバイアス修正法は一般的な枠組みで提案しており、さらなる応用や問題に応じた手法の改善が見込まれる。また金融工学において有用なリスク尺度であるエクスペクタイルの推定問題に利用されるカーネル型推定量の分布の高次漸近分布の導出にも成功している。エクスペクタイルは金融工学ではコホーレント・リスクとして知られており、その有効活用が期待できるものである。高次漸近分布はカーネル型分布関数推定量を利用するからこそ得られるものであり、ノンパラメトリックな推測法として重要な意味を持つものである。これらの成果を踏まえて、経験分布関数の関数となる統計量において、カーネル型推定量を組み込んだ新たな推測法の構築が可能で、滑らかさを持つ統計量のクラスについて統一的に研究することが可能となった。また適用した手法は他の統計量についても応用可能なものと思われ、今後の研究はさらに広がるものと期待できる。また学会等での発表でも肯定的な評価を得ており、進捗状況としては十分なものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに受けた他の研究者からのレヴューの内容を吟味し、新たな取り組むべき課題を明確にしていく。具体的には経験分布関数を利用したノンパラメトリック推測法を精査し、カーネル型分布関数推定量の代替の可能性を検討していく。その過程で境界バイアスの新たな修正法について考察し、有効な適用法を研究する。さらに高次漸近分布の導出を行い、高精度の信頼区間および、有意確率の近似法を研究していく。また得られた成果を論文としてまとめて、国際誌への投稿を行い、成果の国際的な発信を図る。その過程で本研究の成果の意味付けを深めて、さらなる研究の進展を目指す。エッジワース展開を利用して推測法の構築を図るときに、理論的には精度が改善されるはずであるがシミュレーションの結果は精度の改善が十分とは言えないものがある。これはこれまでの研究においてもみられる現象であり、ノンパラメトリック推測の解決すべき問題の1つである。この問題点の解決を図るために、新たな構成法を開発しその実問題への適用を行う。また近年多くの分野で利用されている機械学習においては、精緻な統計モデルを仮定しない、ノンパラメトリックな手法を使うものが増えている。したがって本研究の成果を生かして関連する推測法に適用することができれば、高精度の推測結果を得ることができて、新たな知見を得ることが期待できる。この研究も同時に行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は教室主任を担当していたためもあり、情報収集のための研究集会への出張等を十分に行うことができなかった。またコロナの影響もあり、オンラインでの研究打ち合わせが多くなり、当初予定した旅費の支出が少なくなった。またパソコンの購入も行ったが、高性能ではあるが価格の安い機種を選ぶことができたために支出を節約することができた。図書についてはハードカバーの書籍から電子媒体の物に変更したものが多くあり、支出が節約できた。以上の結果当初の計画より支出額が減っために次年度使用額が生じた。 令和5年度はコロナの影響が少なくなることが期待できるので、より詳細な研究の打ち合わせのための出張に繰越金を使用する予定である。特にオーストラリアで開催される国際研究集会に参加し、研究情報の収集を行うとともに、オーストラリアの共同研究者との意見交換を行い、研究を進展させることを目指す予定である。
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