研究課題/領域番号 |
22K11951
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
三角 宗近 公益財団法人放射線影響研究所, 統計部, 副部長 (90457432)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 放射線疫学 / 発がんモデル / 多状態モデル / 競合リスク |
研究実績の概要 |
本研究では、分子生物学の知見に基づいて数理モデルを構築し、その数理モデルを疫学データにあてはめる発がん機序モデリングを行い、その結果を一般的な疫学研究で用いられる記述モデルの結果と比較する。2022年度は、コロナウイルス感染症に関わる制約で、海外出張や学会発表に参加する機会が持てなかった。 発がん機序モデルの導出については、分子生物学の知見と数理モデルの経験を有するコラボレーターとの議論を行う予定である。そのため、初年度(2022年度)は、機序モデリングの基盤となる経験を積みながら、発がんのプロセスに当たる新たなデータを含めた記述モデルを用いた統計解析を先に行うことにした。具体的には、広島、長崎の原爆被爆者コホートの固形がん罹患率の解析にはこれまで含まれていなかったデータを用いて、発がん過程の1つの段階に該当する事象と放射線被曝との関連を評価するため、そのデータを含めた統計解析を行った。その際、多状態モデルと言われる生存時間解析の手法を用いるため、多状態モデルの適用に関わる生存時間解析手法について研究を進めた。その中で、多状態モデルを用いることが多い競合リスクの問題を扱う統計手法の研究を行う機会が生じ、長期追跡を伴う疫学データにおける感覚と矛盾する研究成果について仮説を検証するシミュレーション研究を行った。また、原爆被爆者の放射線被曝と大腸がんの関連について、結腸がんのリスクは放射線被曝によって上がるが、直腸がんのリスクは上昇しないことが知られており、放射線疫学、放射線生物学のコミュニティでは長年多くの議論を呼ぶ謎となっている。2022年度に行った統計解析では、直腸がん罹患と放射線被曝の関連に焦点を当て、統計解析結果をまとめた。その成果に基づき、現在論文執筆中で、研究成果は2023年の放射線研究分野で最大の学会で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発がん機序モデルの疫学データへの適用については、新しいデータを考慮してどのように拡張させるか検討が必要であるため、先に疫学データに一般的な記述モデルを適用し、放射線被曝の影響について調査することを考えた。一般的な記述モデルには、生存時間解析の手法の中で特に多状態モデルと呼ばれる方法の適用を考え、研究を行った。その際、多状態モデルの適用が求められる他の疾患における問題に新たな仮説を提案する機会に遭遇し、シミュレーション研究を行い、Life誌に論文を出版した。また、大規模コホート研究において、大腸がん発がん過程の途中と考えられる段階と放射線との関連を検討した研究はこれまで存在しないため、放射線影響研究のみでなく、疫学研究一般においても大きな知見となると考えている。その成果を論文にまとめている途中であるが、2023年度に放射線研究の最大の国際会議で発表するために概要の登録を行った。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現在作成中の原爆被爆者での放射線と大腸がん罹患についての関連の詳細を論文にまとめ、出版する。その成果をもとに、発がん過程のデータに発がん機序モデルを適用する方法論を構築し、発がん機序モデルの論文を作成する。さらに、発がん機序モデルの結果が、一般的な記述モデルによる結果をどのように表していると考えられるか、議論する。発がん機序モデルの拡張、およびデータへの適用と解釈には、それぞれ数理モデリング、がん疫学・がん生物学の専門的知識に基づいた判断が不可欠であり、論文作成にあたってはそれらの専門家と十分に議論する必要があるため、海外・国内の専門家を訪ね、議論する機会を求める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、所属機関における研究者の来所および海外出張の制限もあり、学会発表等を控えてデータ解析を進めた。そのためのインフラ整備に必要な経費は使用したが、旅費は次年度以降にコロナウイルス感染症に関する制約が緩和されてから使用することを期待し、使用を差し控えたため次年度使用額が生じた。次年度以降、発がん機序モデルの拡張とデータ解析の解釈のために、数理モデル、疫学、生物学の複数の分野の専門家と議論する機会を設ける予定である。
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