研究課題/領域番号 |
22K12008
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
大島 浩太 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (60451986)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Wi-Fi / LTE / 5G / 通信環境計測 / マルチパス |
研究実績の概要 |
本研究は、遠隔操船や自動運航船実現に向けて世界的に研究開発が活発化している海洋工学分野において、従来のVHF帯の専用通信装置ではなく、“通信品質に優れICT技術と親和性の高い無線データ通信(5G,4G,IEEE802.11ahなど)の利活用による海上での新たな価値創出”を目指したもので、性能や特性の異なる無線通信方式の相補的な連携を特徴とする『異種無線連携・併用型の通信制御方式を開発』する。海上の通信環境ビッグデータから機械学習で見出した利用場所に応じた特徴をマルチパス通信制御に自動適用するという従来にはない技術により、海上という特殊な無線通信環境下で、要求される通信品質をその場の通信環境に適応的に提供することを目的としている。 2022年度は、目的の達成にあたり必要不可欠となる、異なる無線通信の連携としてどのような形態が考えられるかの検討を実施した。異なる無線通信環境尾連携するにあたり、それぞれのネットワークがアドレス管理や経路制御方法が異なることに着目し、ネットワークや通信手段の切り替えにより同一の通信セッションが切断されず継続的に通信セッションを維持するためのネットワーク構成の検討と実証実験を実施した。実証実験のために、ゲートウェイ型で動作する複数の無線通信インタフェースを搭載し、通信インタフェースの周囲の通信状況に応じた切り替えを可能とするプロトタイプソフトウェアを組み込んだ装置を開発した。実験から、異なる無線通信方式を併用するネットワークアーキテクチャにおいて、セッション維持を行う要因を明らかにした。 また、複数種類の無線通信インタフェースを搭載し周囲の無線通信環境を計測可能な装置の設計と開発を実施した。可搬性を考慮してバッテリによる宮殿で稼働するハードウェアを開発し、通信環境の計測以外にも通信制御装置としての活用も可能なようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、(1)異なる無線通信方式の連携方式の検討と基礎的な実証実験、(2)複数種類の無線通信インタフェースを搭載し通信環境を計測可能な装置の設計と開発の2本を軸に実施した。 (1)では、Wi-Fiインタフェースを2本、LTEインタフェース1本を民生品の情報機器に装着し、接続状況の監視状況や周囲の通信環境に応じてインタフェースの接続先を明示的に切り替え可能な通信制御ソフトウェアも搭載したプロトタイプシステムを用いて実施した。まず、異種無線通信方式の連携として、高速ハンドオーバやマルチパスによる同時通信の2種類の形態が考えられる。これらに共通する課題として、接続先の変化によりそれまでのアドレス情報が変化し、通信セッションの継続が困難になるという点が挙げられる。特にIP網は通信インフラ単位でアドレス管理するため、移動時にアドレス変化が生じたとしてもセッション継続できることが望ましい。移動時にもセッションを継続するためには、ソースアドレスやポートに依存せずにセッションを識別でき、さらにアドレス変化時にもパケットを受信できる機能が必要となる。今回はこれらの要件をOpenVPNが満たしていることが調査の結果判明したため、OpenVPNを用いた拠点間接続型のネットワークアーキテクチャを採用した。プロトタイプシステムによる実証実験の結果、移動によりアドレスが変化してもセッションを継続できること、Wi-FiとLTEを切り替えても同様の動作が可能であることを確認した。 (2)では、民生品の情報端末では搭載可能な無線通信インタフェース数が少ないことから、m,2接続が4つとUSBによる接続が可能な、多種・多数の無線通信インタフェースを収容可能なハードウェアを開発した。SOMを用いて各インタフェースを管理可能とし、搭載したインタフェースを用いた無線通信環境の計測を可能とする機能を実装した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、開発した複数種類の無線通信インタフェースを搭載し通信環境を計測可能な装置を用いて、(1) 高速性、安定性、リアルタイム性などの通信品質を達成するための通信回線の連携・併用に関する基本モデルの構築、(2)実際の船舶を用いた通信環境の計測および通信環境ビッグデータの分析を通じた海上における通信環境特性の把握を行う。次に、(3)通信環境特性を通信制御に反映するための通信制御方式の開発を中心に実施する。 (1)は、開発した装置が通信環境計測だけではなく、ゲートウェイ型の通信装置としても利用可能なよう構成しており、またSOMにLinux OSを導入することでソフトウェア的な通信制御を実行可能にしていることから、様々な通信方式の検証が可能である。この装置を用いて、冗長通信やマルチパス通信といったパケットの配送方式を、現在の通信環境の状態に応じて動作パラメータを調整することで1本の回線だけでは難しい様々な通信性能を達成可能なパケット配送方式を設計・開発する。(2)は、東京海洋大学の保有する練習船を研究実験で利用可能な実験航海の機会を活用し、モバイルデータ通信を中心に通信環境の計測実験を実施する予定である。社会情勢の関係で実験航海の機会が減少しているため、限られた機会で最大限の成果が得られるよう準備を行い実験に臨む。得られたデータは、これまでに蓄積しているデータも含めて分析することで、海上の無線通信において、より高度な性能を達成するための要件を明らかにする。その要件を、(3)で通信制御に応用することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究自体は概ね当初の予定通り進めることができたが、社会情勢不安に起因する半導体不足や物価・旅費の高騰、行動制限の影響で、当初計画の計上費目を上回るという状況が生じた。特に5GやWi-Fi HaLowなどの無線通信インタフェースの価格高騰やリリース時期の延期があり、それぞれの購入を見送ったことが次年度使用額の生じた主な理由である。2022年度に開発したシステムは拡張性を重視しており後付けも可能であるので、価格や入手性を調べながら上記無線通信インタフェースの入手を行う予定である。
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