研究実績の概要 |
2023年度は昨年度SYCLにより整備した半精度、単精度、倍精度、4倍精度によるデータ型と演算精度の任意の組み合わせを可能とするハイブリッド混合精度処理フレームワークを利用して一般化最小残差法(GMRES法)及び圧縮基底(CB)GMRES法を実装した。GMRES法は方程式Ax=bの行列Aとベクトルbによる部分空間{b,Ab,AAb,...}において残差Ax-bを最小化するベクトルxの近似解を求めるクリロフ部分空間法であり、反復毎 に残差ノルムが単調減少する特徴がある。{b,Ab,AAb,...}のベクトル列はAのべき乗が大きくなると線形従属に近づくため{b,Ab,AAb,...}を直交化して得られるベクトル列を基底ベクトルにして近似解を計算する。 CBGMRES法はGMRES法と同じアルゴリズムであるが、直交化して得られる基底ベクトルを低精度に変換して保持することでメモリアクセスを削減し、高速化を実現する。しかしながら、基底ベクトルを低精度で保持するため丸め誤差の影響により収束性が悪化する場合がある。 実装したCBGMRES法をSuite Sparse Matrix Collectionで公開されている行列データを用いて収束性を評価した。その結果、ハイブリッド混合精度処理によってメモリアクセスを削減して処理を高速化できるケースを確認したが、問題によっては反復毎に残差ノルムが単調減少する性質が失われ、GMRES法と比較して収束性が悪化するケースが存在することを確認した。この問題に対し、基底ベクトルの直交化に数値精度の高い方法を採用することで収束性の悪化が改善することを確認した。
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