研究課題/領域番号 |
22K12075
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
白岩 史 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (80640276)
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研究分担者 |
井上 晴彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (10435612)
林 武文 関西大学, 総合情報学部, 教授 (90268326)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 画像診断 / 深層学習 / ハイパースペクトル解析 / 眼球運動計測 / 目視検査 / 病害診断 / カンキツグリーニング病 |
研究実績の概要 |
本研究は,植物の葉面反射光のハイパースペクトル解析と人間の認知行動特性を取り込んだ深層学習により,民生用デジタルカメラで撮影した植物の画像から病害を高精度で診断する技術を開発することを目的としている.今年度は,以下の項目について検討を進めた. (1) 深層学習による病害の画像診断システムの構築: 画像認識に用いられるニューラルネットワークFASTER RCNNを用いた病害の画像診断システムの構築を進めた.診断対象としては,① 葉単位,② 樹全体,③ 農園全体の3段階があるが、①に関してはこれまでの検討で,ネットワークモデルVGG16を用いることにより,高精度での診断が可能であることを確認している.今回は,②の精度を向上させるため,階層を増やしたResNet101を用いて評価実験を行い,認識精度が改善されることを確認した。 (2) 目視判定における熟練者の方略の計測: 目視検査によって罹病判定を行う専門家の視線情報を分析し,得た結果を深層学習に適用することを検討した.罹病の目視判定を行う専門家の熟練者と非専門家である初心者の視線行動を計測し,その結果,熟練者は広く樹全体を観察するのに対し,初心者は特定の箇所のみを観察して判定していることが明らかになった.今後は,注視点の差異を深層学習の訓練画像に反映させることを検討する. (3) HLBによる葉面反射光の波長変化の検出: ハイパースペクトルカメラSPECIMを用いて,実際の植物の葉面の反射光を計測し,スペクトル画像から葉の領域を検出して,各画素のスペクトル分布を入手するソフトウェアを開発した.ソフトウェアは,次年度以降には,実際にタイもしくはベトナムの農園において,罹患樹と健全樹のハイパースペクトル画像の計測実験を行い,HLB罹患樹に特異的な反射波長ピークを明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初導入を予定していたハイパースペクトルカメラの機種変更に伴い,カメラの入手が大幅に遅れたためハイパースペクトル解析に関しては着手が遅れた.また,対象とする病害に関して,海外も含めた対策の緊急性とサンプルの入手容易性の理由により,CTV (トリステーザウィルス病) からHLB (カンキツグリーニング病) に変更した.HLBはCTVと同様に,病害の進行によって葉面が黄色化して反射光の反射率が変化するため,深層学習による画像診断の対象としては同様の扱いが可能である.これら当初の計画からの変更に対応するため,カンキツ果樹の画像に関しては,タイとベトナムの海外共同研究機関に収集を依頼することにした.また,研究計画書に記した研究の順序を変更して実施することにより所定の成果を挙げることが出来た.さらに,7月と11月に,それぞれベトナム,タイに出向いて,病害の目視判定における熟練者の行動を観察し,眼球運動を計測することができた.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も,病害診断の対象をHLB (カンキツグリーニング病) として研究を進める.当初の計画で診断対象に挙げたCTV (トリステーザウィルス病) に関しては,本研究の技術が確立されれば,同じ方法で診断システムを構築することが可能である.HLBは東南アジアや米国のカリフォルニア以南の地域で,柑橘の生産に深刻な打撃を与えている病害であり,全世界のカンキツの生産量を保つためには本研究で開発を行う簡易診断システムによる早期発見と管理が急務となっている.今後は,海外の共同研究機関との連携を密にするとともに,ハイパースペクトル画像と果樹の画像データの取得のために,現地での計測を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,カンキツの感染樹をCTVからHLBに変更したため,CTV罹病樹を用意する必要がなくなった.次年度は,CTVに感染したカンキツを使って実験を行う予定である. また,国内の出張については,鳥取大学および関西大学を計画していたが,コロナウィルス感染症の対応や,日程が合わず断念し,オンライン会議を行うことによって情報のやり取りを行った. 本年度は,コロナウィルスによる影響も少ないと考えられ,研究活動についても支障は少ないと予想されることから,共同研究者とともに実験することを計画している.
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