研究課題/領域番号 |
22K12183
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
信川 創 千葉工業大学, 情報科学部, 教授 (70724558)
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研究分担者 |
高橋 哲也 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 協力研究員 (00377459)
我妻 伸彦 東邦大学, 理学部, 講師 (60632958)
池田 尊司 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 准教授 (80552687)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 脳波 / 脳活動シミュレーション / 機能的結合 / 神経ネットワークダイナミクス / リザバーコンピューティング |
研究実績の概要 |
本研究は,1. 全脳的な位相ダイナミクスに基づくGDPSの導入, 2. 統合失調症のGDPSのダイナミクスプロフィールの分類, 3. 統合失調症の治療前後のダイナミクスプロフィール変化の分析, 4. 脳活動シミュレーションによる統合失調症のプロフィールを生成する神経ネットワーク構造と治療に伴う構造変化の推定 の4つの項目に関して研究を実施している. 令和5年度の成果としては,項目の4に対応する脳活動シミュレーションを実施し,統合失調症に見られる極めて大きな興奮性シナプス後電位(EPSP)を持つシナプスの増加とE/I balanceの変質に伴う認知機能の劣化を説明し得るリザバーコンピューティングに基づく数理モデルを構築し,国際会議において発表を行なった. 具体的には,適切なEPSPやGABAによる適度な抑制性結合によるE/I balance下においては,特にgamma帯域での決定論性を支えるリカレントな神経経路が形成され,その特性によりメモリ機能が強化される.しかしこのような条件設定が壊れるとその特性が損なわれ,機能劣化につながることが明らかとなった. 近年,マウスモデルでも極めて大きなEPSPの存在が統合失調症を誘起することが示されており(Obi-Nagata et al., Science Advances, 2023),得られたこの知見は,このような統合失調症の機構をダイナミクスの視点から解明し得る成果と言える.また,脳の構造を模したリザバーコンピューティングにおける予備実験として,脳の階層構造やニューロンの時間的履歴効果をモデルに組み込んだ場合の性能への影響についても調査を行い,階層性とニューロン内の時間履歴効果による機能強化のメカニズムを明らかにした.これらの成果に関しても国際会議発表と原著論文での発表を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに前述の研究内容の1と2に関する研究項目に関しては完了しており,現在,3と4を中心に研究を遂行している.特に,GDPSを提案した原著論文の出版を1月にすでに実施しており,引き続き,統合失調症の脳波に対してGDPSを適用した成果について原著論文として発表して行く予定である.また数理モデル研究においても,すでに複数の国際会議や原著論文での発表を終えている.現在,さらに統合失調症の詳細な神経ネットワーク特性を組み込んだモデルにおいても成果が出ており,令和6年度中の原著論文の出版を予定している.よって,臨床脳波の解析と数理モデリングによる脳活動シミュレーションはおおむね順調で進んでいると言える. 3に関しては,予備的に行なった統合失調症の治療前後における,phase lag indexによって推定した機能的な神経ネットワークのハブ性に関して,変化が見られない結果が得られており,GDPSで得られる結果との比較検討が必要となる.
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今後の研究の推進方策 |
上述の研究項目の内で,最終年度は3と4の研究項目について,集中的に取り組む予定である.具体的には,現在構築しているスパイキングニューラルネットワークを用いた脳活動シミュレータに対して,より多くの脳領野を結合させ,統合失調症における神経ネットワークの弱体化をモデルに組み込み,より生理学的妥当性の高いシミュレーション下での神経活動プロフィールの評価を行うことを計画している. 統合失調症においては,自発活動と刺激応答時に特徴的な応答示すことが知られており,このような点に関しても数理モデル化を試みる予定である.また, GDPSのプロフィールが,令和5年度で得られた機能的結合での評価と同様に治療効果の判定が難しい場合においては,着目する周波数帯域の調整(病態を反映するbetaとgamma領域からさらに評価帯域をthetaとalpha領域に拡張)や他の局所的な神経活動や機能的結合のダイナミクスプロフィールを総合的に評価する枠組みの導入などを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度は,研究成果を発表した原著論文の掲載料が想定よりも低いジャーナルへの掲載となったため,次年度の繰越となった.しかし,現在の円安の進行に伴う国際会議の参加費用と論文掲載料の高騰状況を鑑みると,令和6年度に繰越しとなった分は,令和6年度の研究成果報告を行うための国際会議の参加費と論文掲載料で相殺されると考えている.
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