研究課題/領域番号 |
22K12208
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山根 健 帝京大学, 理工学部, 講師 (30581235)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 屋外自律移動ロボット / 自己位置推定 / 軌道アトラクタ / トポロジカルマップ / 選択的不感化 / 分散表現 |
研究実績の概要 |
本研究では,移動ロボットの頑健かつ柔軟な自律走行を実現することが大目標である.詳細で整合性が取れた環境地図を用いない自己位置推定方法を提案し,本方法に基づいたナビゲーションシステムの実現を目指す. 令和4年度では,自己位置推定の具体的な方法を検討して性能を調べた.提案方法では,リカレントニューラルネットの一つである軌道アトラクタモデルを用いて自己位置を推定する.経路などの順序構造を軌道アトラクタとして神経回路のダイナミクスに埋め込んだ上で,複数のセンサから得られる環境情報に応じてダイナミクスを変化させ,神経回路の状態を遷移させることで推定する. 予備実験より実際のロボットの位置と推定結果の差が徐々に拡大して精度が悪化する現象が見られた.そこで,差の拡大を抑制するように軌道アトラクタの形成を工夫した. 実際に推定システムを構築し,複数の環境において検証実験を行った.まず,茨城県つくば市役所敷地内の屋外コースにおいて日時を変えて23回の走行データを取得した.1つのデータを用いて経路を学習した上で,残りの22回のデータを用いて検証した.その結果,大型車両による環境変化や狭い道で複数の人やロボットが作る渋滞に遭遇した場合などを含むデータについて91%の精度で正しく推定ができることを確かめた. 次に,経路の一部に重なりがあるような学内の3つのコースを一度に学習して検証した.その結果,環境情報に応じてダイナミクスを動的に変化させることで神経回路の状態を適切に遷移させることができ,学習データの走行軌道から大きく外れない限り安定して推定できることを確かめた.これらの結果から,提案方法は軌道アトラクタへの引き込みを利用して頑健に自己位置推定できることが明らかになった. この成果は,屋外自律移動ロボットの頑健な自己位置推定技術に繋がり,ナビゲーションでの利用に向けて大きな可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,令和4年度の研究実施計画に沿って行われた.まず,軌道アトラクタを用いた自己位置推定方法を具体的に検討した.実際のロボットの位置と推定結果の差が徐々に拡大する現象について軌道アトラクタの形成方法を工夫することで解決した.推定システムを構築して,街中実験であるつくばチャレンジ2022で検証するなど複数の屋外環境において実験した.精度や頑健性など基本的な性能を調べて,成果の一部を国内学会において口頭発表した.未学習経路への対応能力の調査が十分ではないが,これは令和5年の課題とする. 次に,制御信号生成についても検討している.オペレータがマニュアル操作をして取得された走行データからセンサ信号と制御信号を結びつけて学習するモデルを設計した.複数のセンサから得られる環境情報をパターンコーディングして選択的不感化法により情報統合する.これにより汎化能力を失うことなく,少ない走行データサンプルから環境に対して反射的行動を生成できると期待される.現在は,特定の人物を追従させるタスクにおいて性能を検証している. 提案手法は情報のコード化方法を工夫することで利点を最大限活かせる可能性があるため,この点も検討した.本研究ではIMUから得られる方位,オドメトリから計算されるロボットの並進速度・回転速度,3D LiDAR情報,鉛直方向の地場の強さなど複数の環境情報を用いる.特にLiDAR情報については,多次元情報をある幾つかの計測範囲でまとめて最小値で代表させる単純な方法だけでなく,Akaiらの研究を参考に点群データからパーシステントイメージを生成して固定長ベクトルとする方法や,脇田らの研究を参考に拡張したVariational Autoencoderを用いて潜在変数として特徴抽出する方法を検討し,それぞれの手法の特徴などを明らかにした.最終的に採用する方法については今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に引き続いて,自己位置推定,制御信号生成について検討する.また,これらを実現する2つの神経回路を連動させることでナビゲーションを実現する. 自己位置推定では,実験を重ねて利点を明らかにしつつ,残された課題を解決する.まず,未学習の経路が一部にある場合の推定性能について学内で調べる.次に,環境情報のコード化方法の検討は自己位置推定やナビゲーションの性能に直結する重要課題である.特に,LiDAR情報は多次元データであるため特徴抽出するなど低次元化する必要がある.パーシステントイメージやVAEを用いる方法を引き続き検討する.また,ロボットの経路を軌道アトラクタとして埋め込む際に再訪点を検出できれば,効率的な埋め込みが可能になり神経回路の記憶容量を節約することができる.これについても具体的な方法を検討する. 制御信号生成については,引き続き,オペレータがマニュアル操作をして取得された走行データからセンサ信号と制御信号を結びつけて学習するモデルについて検討する.グローバルな位置情報をもたずにその場の環境情報だけに基づいて移動するタスク,具体的には障害物が幾つか存在する環境において特定人物を追従するタスクで検証する. ナビゲーションについては,2つの神経回路を連動させることで実現する.連動のために選択的不感化法を用いて,それぞれの 神経回路を独立に動かしつつも相互作用させる方法を採用する.検証実験では,学内だけでなく街中走行実験であるつくばチャレンジの環境を利用する. 順調に進めば,屋外環境で経路の一部が未学習であるような事前データ取得なし走行にチャレンジする.また,提案する自己位置推定方法は人の連想記憶メカニズムに近いものであり,人の認知機能と相性が良いと考えられる.本手法の性質が移動ロボットの使い勝手の良さに繋がるかについても調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画調書の記載内容から交付決定額が減額されたため,使用計画を見直した.まず,LiDARセンサについて,Velodyne社VLP-16-HiResから,6割程度の価格のRoboSense社RS-Helios-5515に変更した.次に,ロボット台車として選定したT-frog Projectのi-Cartシリーズについて,COVID-19感染拡大やウクライナ情勢に伴う半導体供給不足の影響があり「部品供給難のため,モータドライバTF-2MD3-R6は,納期・価格ともに未定となりました(公式HP:https://t-frog.com/)」と購入が不可能となった.また,旅費に関しても,国内学会がハイブリッド開催になり,オンラインで口頭発表したため計画通り使用する必要がなくなった.人件費・謝金については,未だ実験補助者を雇用する段階ではないとして使用しなかった.これらの理由のため,次年度使用額が生じた. 翌年分として請求した助成金と合わせた使用計画は以下の通りである.まず,ロボット台車としてCuboRex社のクローラ型ユニットCuGoV4を購入して実験用ロボットを作成する.これでほぼ差額分を使用する計画である.また,令和5年度の計画通り,消耗品,現在執筆中の英文校閲代・論文投稿料,学会参加費,実験補助社への謝金などに使用する.
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