研究課題/領域番号 |
22K12211
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
十河 拓也 中部大学, 理工学部, 教授 (40273487)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カルマンフィルタ / センサーフュージョン / 移動ロボット / 自己位置推定 / ナビゲーション / 確率的推定法 / リー群 |
研究実績の概要 |
移動ロボットなどの自律移動体が屋内や遮蔽物の多い都市空間、または移動物体の多い生活環境において自律的に動作するための基盤となる能力は、さまざまな環境センサーの計測値を統合して自己位置・姿勢と環境地図を推定する能力である。この推定問題は非線形性が強く、広く用いられている確率的推定法である従来のカルマンフィルタを直接適用しても良好な結果が得られない。自律移動体の非線形運動モデルであるリー群の構造を利用し、この推定問題に特化した確率過程モデルと統計的推論の方法を構築することを目的として研究を行った。 移動ロボットの運動を平面上の剛体運動とし、剛体の位置・姿勢を連続群の要素とみて、その要素の不確かさをその点における接空間の確率分布として表現する手法を基礎として、確率分布の制御入力による遷移や、外界センサ計測値が得られた際の事後確率分布の定め方について研究をおこなった。制御入力やセンサ計測値の不確かさを取り込む際に必要となる確率分布の近似の方法として、行列指数関数の高次項までを用いるアプローチを用いてより高精度の推定を行うことができる方法を提案した。この方法を数値シミュレーションにより従来法である拡張カルマンフィルタやアンセンテッドカルマンフィルタと比較し、良好な推定精度が得られることを明らかにした。 移動ロボットの自己位置推定問題の外界センサ計測値として、点型ランドマークの方位と距離または方位、GPS計測による自己位置を想定した状況を与え、数値シミュレーションによって提案手法の精度が従来法を上回っていることを明らかにした。さらに自己位置推定に加えて地図推定を同時に行う問題設定を考え、提案手法と従来法を数値シミュレーションによって比較し、自己推定のみの場合以上に提案手法のほうが高精度の推定を行えることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自律移動体の非線形運動モデルであるリー群の構造を利用し、この運動モデルの推定問題に特化した確率過程モデルと統計的推定の方法を理論的に導くことはおおむね予定通りに進捗している。数値シミュレーションによって新たに提案したカルマンフィルタと従来のカルマンフィルタによる推定精度や計算量の比較については、ほぼ予想したとおりの結果が得られている。パーティクルフィルタとの比較については提案手法が計算量の面で大きく有利と予想していたが、地図作成を行わない自己位置推定に限定した問題については予想とは異なる結果が得られたため、これについての検証を予定していた以上に深めることを行っている。 一方、実験的検証のためにLiDARセンサーを備えた移動ロボットによる実験を行う予定にしていたが、LiDAR計測値から環境地図を作成する部分には画像認識等の異なる分野の技術の利用が必要であることが分かり、これらの技術習得のために予想以上の時間が掛かっている。これにより実機による実験的検証が予定よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの移動ロボットの自己位置推定問題のみならず自己位置推定と同時に環境地図を作成する問題について、この非線形推定問題固有の数理的特性を活用した確率過程モデルと統計的推定の方法を開発することを推進していく。移動ロボットの外界センサとして点型ランドマークの方位・距離計測だけではなく、GPS計測やLiDARによる環境の幾何学情報計測など実際の応用問題で考えられる様々なセンサを用いた場合についても研究を行っていく。 平面上の剛体運動である移動ロボットの自己位置推定と同様のアプローチにより、空間内の剛体運動であるドローン等の自律飛行体の自己位置推定および地図作成の問題の研究を推進していく。空間内の剛体についてもその位置・姿勢を連続群の要素とみて、その要素の不確かさをその点における接空間の確率分布として表現する手法を基礎とし、確率分布の制御入力による遷移や、外界センサ計測値が得られた際の事後確率分布の定め方について研究をすすめていく。移動ロボットの場合と同様に数値シミュレーションにより推定法の精度や計算量について従来のカルマンフィルタによる方法と比較しながら性能を検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した物品の価格変動があったため若干の差額(117円)が生じた。 経費の一部として有効活用する予定である。
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