研究課題/領域番号 |
22K12262
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
海老沢 嘉伸 静岡大学, 工学部, 教授 (40213574)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 眼底 / 血中酸素飽和度 / 非侵襲計測 / 近赤外光 / 瞳孔輝度計測 |
研究実績の概要 |
本研究では、遠隔から(30㎝~50㎝程度を想定)非接触で人間の眼底の血中酸素飽和度SO2の計測が日常的に行える装置の開発とその実証実験の試みを行っている。眼底疾患の発見に役立つことが期待できる。 1年目は、2波長(810nm, 940nm)を被験者の顔に光を照射させ、2波長間の瞳孔輝度比をSO2に相関を持つ数値(以後、単にSO2と呼ぶ)を検出した。被験者に画面上の1点を注視させ無呼吸実験を試みた。指先の経皮的動脈血酸素飽和度SpO2を同時計測した。両眼で合計4カ所の同時計測をした結果、3名中、どの被験者でも1か所のみに、SpO2の経時的変化とSO2が相関的に変化する傾向が見られた。この結果は、動脈と静脈の量比が眼底の位置によって異なるためと考察できた。よって、計測中にどこを注視させるべきかが課題となった。 2年目には、本方法で一時期に網膜のどの程度の広さの領域のSO2を計測しているのかを調べるため、被験者に滑動性眼球運動を生じさせ、計測領域が網膜上の視神経乳頭を含む領域を水平走査するように計測した。その結果、810nmでは瞳孔輝度が視神経乳頭部分で急峻に上昇する結果が得られた。940nmではその傾向が弱かった。眼球の近くから網膜の広い範囲を撮影する方式で同2波長を使用して撮影したときに、神経乳頭部が周囲に比べて輝度が高く、その度合いが810nmのほうが大きいという知見がある。本実験結果はそれと一致するとともに、本方法による計測領域は神経乳頭よりも狭いことが示唆された。この結果を受けて、黄斑部のSO2を計測すること想定して、瞳孔検出法用光学系を被験者に注視させて無呼吸実験を行った結果、1年目と同様にSO2に変化が生じた。黄斑部は加齢や疾患により異常により視覚に重大な問題を起こす部位であり、測定するにあたり、光学系を注視するだけで済むため、日常の計測に有効であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
瞳孔輝度と瞳孔面積との関係が正比例になることを確認することを課題としていたが、1年目は被験者にモニター画面を注視させながらSO2を計測し、2年目に瞳孔検出用光学系を注視させながらSO2を計測した。ともに、従来に比べ、より正比例に近くすることができ、瞳孔輝度を瞳孔面積で正規化することなしで、単純演算により2波長間の瞳孔輝度比でSO2の変化を検出できたことは計画通りである。 上述のように、一定の位置を計測できるだけであるため、眼底を走査し、眼底の広い範囲での計測をする方法を提案することを計画していたが、それには至らなかった。しかし、視覚にとって重要な黄斑部でのSO2が計測できることを示唆する結果が得られ、実用化に向けて、むしろ有用な結果を得た。それに関連して、1年目では動脈の多い部位でないと瞳孔輝度比に変化が生じないと考察した。黄斑部では、毛細血管が多く、動脈と静脈の量がニュートラルであると予想していたため、瞳孔輝度比変化が得られにくいと予想していたが、変化が得られることが確認できたことは予想外の価値ある発見であった。 眼球を回転させることにより、SO2の計測部位を、視神経乳頭部を含む少し広い範囲を水平走査させることで、本方法の計測範囲が非常に狭い領域であることが確認できた点も計画になかった進展である。それにより、上述のように、視覚に重要な黄斑部のみを特定してSO2を計測することにつながった。 これまで特殊で入手しにくいマルチスペクトルカメラを使用していたが、普通のマシンビジョンカメラでも画像の一部のみを取り込むことで高フレーム化できるカメラを利用した光学系を、未だ不備な点があるが、構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、瞳孔検出用光学系を注視することで、視力にとって重要な眼底の黄斑部のSO2を計測できていることが示唆される結果を得た。したがって、被験者に光学系を注視させるだけで、視覚の中でも特に重要な黄斑部のSO2が計測できると考えられ、有効である。しかし、現状では、光学系に対する瞳孔の3次元位置を固定するために、歯形を作って被験者に噛ませ頭部を固定している。まずは、SO2が計測できる可能性があるかを検証するためであったが、日常的な計測には不都合である。 最終年度は、頭部を動かしても計測ができるかを検証する。そのためには、次のことを行う。カメラはその性質上、画像の中心が周辺に比べて相対的に明るい傾向がある。また、使用している近赤外光源には指向性があるため、さらに画像の中心が明るく周囲が暗くなる傾向が強まる。また、使用している810nmと940nmの光源の指向性には違いがあるため、頭部が移動し(移動中という意味ではない)、別の位置で瞳孔輝度を計測すると、血中酸素飽和度が変化しなくても、2波長間の輝度比に変化が生じてしまうと考えられる。そこで、白板を光学系の前に設置し、波長ごとに輝度補正を行うことを提案し、導入する。 研究実績の概要に述べた実験では、2波長を同時発光させて、波長分離した画像が得られるマルチスペクトルカメラを使用した。課題としてきた、瞳孔輝度と瞳孔面積との間の正比例関係が成立させることにはほぼ成功したため、瞳孔輝度を瞳孔面積で正規化する必要がなくなり、単純に2波長間の瞳孔輝度比からSO2を求められるようになった。しかし、同カメラが特別なカメラであるため、一般的なマシンビジョンカメラのフレームレートを高速化したものを利用した研究を別途開始した。しかし、なんらかの理由で、瞳孔輝度と瞳孔面積との間の正比例関係が成立させるするには至っていない。その検討を進める。
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