研究実績の概要 |
本研究の期間全体での目標は、① 単体の化学物質が生体へ与える影響を予測する手法の開発、② 複数の化学物質が生体へ与える影響を予測する手法の開発、③ 他種への拡張という3つである。本年度は②を実施した。 前年度の研究結果から、魚類(メダカ)・哺乳類(ヒト)ではインタラクトームデータを用いた予測手法が、単体の化学物質の影響予測に有用であることが示されていた。このことから、本年度はヒトのインタラクトームデータを用いて、化学物質の複合影響の結果である疾患を予測する手法の開発を行った。本手法では、ネットワーク伝播と呼ばれる半教師あり学習のアルゴリズムを用いて、複数の化学物質の物質名を入力とし、これらの化学物質に関連が強い疾患を予測する。例として、PCBs(PCB66, 110, 128, 138, 153)を入力とした予測では、ニキビが最も関連性のある疾患として予測された。これまでの研究から、PCBsの曝露によってヒトでは塩素ざ瘡が引き起こされることが明らかとなっている。このことから、本研究で開発された手法は、既知の影響を上位に予測できることが明らかとなった。 一方で、関連性が既知の疾患に予測が偏ってしまうという課題が挙げられた。これは、学習データである化学物質―疾患の関係性のデータが少ないために起こっていると考えられた。このため、化学物質―疾患の関係性のデータをデータベース検索・文献検索によって増やした。 本研究の成果は、毒性評価国際シンポジウム(International Symposium on Toxicity Assessment (ISTA))や環境化学物質合同大会で発表とともに、国際誌への投稿を予定している。
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