研究課題/領域番号 |
22K12301
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
遠藤 拓 日本大学, 工学部, 教授 (60307808)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 学習支援システム / 学生実験 / 学習管理システム / 遠隔学習 / 持続可能 / 失敗事例からの学び / シュミットのスキーマ理論 |
研究実績の概要 |
運動の技術習得におけるシュミットのスキーマ理論を学生実験科目に適用することで、コロナ禍などに代表される世界的な情勢の変化においても持続可能な学生実験授業を実現することが目的である。 対象とした学生実験は大学2年生で受講する電気電子に関わる基礎的な実験である。実験の原理を教員が説明した動画、および結線手順を説明した動画も作成し、遠隔授業システムで配信している。また、報告書(レポート)の提出も電子ファイルを実験室内に設置されたサーバーに提出させているため、今後、新型のウィルスなどによる爆発的な感染拡大などによって、人々の交流が制限されても、ネットワーク上で最低限の授業はできる。 人々の物理的交流が制限される中で、技術を伝授するためには、対面での技術習得の仕組み(スキーマ)を知る必要がある。シュミットのスキーマ理論によると、初期は「認知段階」となる。学生実験において、認知段階とは、実験の目的、理論、方法を学習する段階と言え、これらの認知レベルを測るには、選択肢問題から正解を選ぶテストが有効である。次が訓練により動作を統合する「連合段階」で、最後が無意識化での技術遂行が可能となる「自動化段階」である。 本研究では、「連合段階」へ学生の達成レベルを上昇させる手法の探索のために、まず始めに情報収集を行った。具体的には「認知段階」で得られた配線の知識を用いて、実際に機器の結線をするという配線試験を通じ、結線の正しさから学生のレベルを測定した。学生が完成させた回路を教員が目視で確認し、ミスが無いか確認する。この時、ミスがあった場合、その箇所の写真を撮り、更にそのようにした理由を聴取した。その結果、回路図と各機器の認知はできているが、配線の意味の理解が不十分で、見た目で線を繋いでいることが分かった。つまり、「連合段階」に至るには適切な訓練をするコンテンツが必要であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、学生が行った実験の失敗事例を取得し、その原因を探ることによって、指導手法の改善を図るものである。申請当初の計画では、実験の様子を動画で撮影することを予定していたが、予算の関係上、定点カメラでは無く、失敗事例が起こった後に教員が持つタブレットPCのカメラ機能で写真を撮影するという方法に変更した。このため、結果から原因を探らなければならず、手順のミスや、その場でミスが判明しない失敗(数値の読み間違いなど)の情報収集は不可能となってしまった。また、システム構築にも時間がかかり、失敗事例の取得開始が10月近くになってしまったのも進捗が遅れた原因である。 システムが稼働してからは、失敗事例の分類を早急に行えるように分類タブを付けたが、失敗の種類、分類、系列付けが多岐にわたり、タブの数が多数になってしまったことから、学生の失敗に対応しながら、そのミスの分類を記録するのは不可能であった。また、回路全体の写真では、不備の箇所を特定するのが困難であるため、タブレットで、不備の箇所を丸で囲うなどして記入することも考えたが、システム構築の予算、納期に問題があり、取りやめた。代わりとして、全体写真の他に、不備の箇所の拡大写真を付けるという運用で対応した。 動画では無く写真にしたことで、解析のために動画を見直す必要が無く、学生の失敗の特定に後処理が不要となった。また、動画では、個人の映り込みを完全に排除できないが、写真では、回路のみを写真に撮り、さらには、間違えた学生の氏名など個人情報も添付しない運用としたため、サーバーに蓄積されるデータから個人を特定することは不可能である。これにより、個人情報保護への対処は不要となった。 予算削減による申請時からのシステム規模縮小による遅れ、手法の変更による収集情報の減少、解析方法の変更による時間短縮、これらを総じて、「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の予定として失敗事例の写真で間違い箇所を指摘するコンテンツを予定していたが、訓練が重要となる「連合段階」へ学生を確実にレベルアップさせるために、今後は「配線の試験」を遠隔で実施できるシステムの構築に変更したい。 配線が出来るようになるためには、回路素子と実際の機器の対応ができる「認知段階」を経て、機器の機能を理解できるレベル、その機能を使うための部品が特定できるレベル、接続するケーブルの種類を選択できるレベル、回路図と自分が行った結線の比較ができるレベルまで上昇させる必要がある。これらをICTを用いて試験できるシステムを構築すれば、同システムで訓練させることも出来るようになる。 課題となるのは、回路図と実際の機器の端子が一致していない事である。端子Aから分岐を経て、端子Bと端子Cに分かれる回路図において、(1)端子Aから端子Bへ結線し、端子Bから端子Cへ結線しても正解だが、(2)端子Aから端子Bに結線した後、端子Aから端子Cに結線しても正解である。このように正解が複数存在するとサーバーでの採点が難しい。対策としては、端子Aを持つ素子1から端子Bを持つ素子2と端子Cを持つ素子3に線を引いた回路図を問題回路として提示する。つまり、答えが一つ((2)のみが正解)になる回路図を出題する。これにより、システムや採点が複雑にならず、学生がどのレベルなのか解析できるようになる。 レベル1としては、「認知段階」の確認を行う。つまり基礎知識の確認である。具体的には、上記の工夫した回路図の素子として正しい機器を写真から選ばせる。レベル2として結線する端子を選んだ後に使うケーブルを選択し、どの端子に接続するか選ぶというものである。これらのログを取ることにより、学生が回路図をどこから見ているのか、回路図の素子と端子をどのように認識しているかも分かり、今後の教授法を改良できるようになる。
|