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2023 年度 実施状況報告書

季節海氷域における力学的変形過程が海氷域経年変動に及ぼす影響に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K12341
研究機関北海道大学

研究代表者

豊田 威信  北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (80312411)

研究分担者 木村 詞明  東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (20374647)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード季節海氷域 / 力学過程 / 数値海氷モデル / 変形氷 / 衛星SAR
研究実績の概要

前年度に研究方針の妥当性が確認されたことを踏まえて解析領域を北半球全体に広げ、1.北半球海氷域の力学的変数の海域別特性および経年変化の解析、2. PALSAR-2画像を用いて北極海の変形氷を抽出するアルゴリズムの検討に取り組み、本研究の核心部の成果をある程度出すことができた。
1.について、北半球海氷域を12の海域に区分し、各々の海域において20年間(2003-22)の漂流速度グリッドデータを用いて、変形速度の大きさやシアー・収束成分など力学的変数の年々変動に着目して解析を行った。特に力学的環境変化の指標としては、塑性的なふるまいを仮定して観測から見積もられる降伏曲線のアスペクト比(e)を取り扱った。これは様々な物理過程をシンプルに表現し、数値海氷モデルに直接的に関与するパラメータであるためである。その結果、北極海内での平均漂流速度はどの海域も10-15%/ decadeで増加傾向が見られ、変形過程には収束成分よりもシアー成分が重要な役割を果たしていること、ボーフォート海では有意なeの増加傾向が認められ、海氷形態の変化が反映している様子などが明らかになった。
2.について、前年度行った解析期間を3年間(2019~21)に拡張することにより前年度の解析結果を補強した。すなわち、SAR後方散乱係数は表面融解が進行する夏季は顕著な増加(約7dB)が見られたものの、冬季に限れば各年ともに変動は比較的安定していることが確かめられた。また、入射角補正を施した後方散乱係数で見ると、海氷変形理論から推測される顕著なリッジングの発生に伴って全体的に約1dB程度の有意な増加が示され、冬季PALSAR-2画像から変形氷を抽出するアルゴリズムの実現可能性が確認された。
以上のように、北半球海氷域については本研究の目的をある程度達成することができた。今後はさらに南極海氷域への応用が期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

季節海氷化が進む北極海の現状において海氷モデルによる氷況予測の精度を改善する必要性に鑑み、本研究の目的は長期間の観測データを基に海氷の変形理論と観測データの両面から現用の数値海氷モデルの問題点を抽出してその改善に資することである。初年度は典型的な季節海氷域であるオホーツク海を対象にして漂流速度データから海氷変形理論の検証を行うことができたので、令和5年度は対象海域を北半球全体に広げた。その結果、どの海域も海氷域の振る舞いを塑性体として扱ったレオロジー理論に基本的にはよく適合しており、塑性体の降伏曲線を楕円で近似した現用モデルの粘塑性レオロジーが機能しうることが確認できた。本研究のもう一つの重要な関心は、海氷形態の変化に伴い海氷域の力学的なふるまいの経年変化を診断するパラメータの定式化は可能か、もし可能であればその実際の経年変化を明らかにするという点にあった。これに関して、楕円降伏曲線のアスペクト比(e)が診断パラメータとなりうることを示し、各海氷域の20年間の最適値eの経年変化を調べた結果、特に形態変化の著しいボーフォート海でeの値が有意に増加傾向にあることを示せたのは、本研究課題にとって意義深いものと考えている。
一方で、モデルの変形過程を検証するためには、観測データに基づいて変形氷の分布をモニタリングする手法の開発は喫緊の課題である。この点においても多年氷が存在する北極海では、表面融解による影響が避けられる冬期間に限定すれば、PALSAR-2画像から変形氷を抽出するアルゴリズムを開発する可能性が見出せたことは、変形氷分布の時間発展が追随できることに繋がり、本研究課題にとって意義深いものであった。
以上のように、当初の計画で令和4年度と令和5年度に行う予定であった事項をひと通り遂行できたので、これまでのところ研究計画を十分に遂行できたと考えている。

今後の研究の推進方策

令和6年度はこれまでに北半球の海氷域で得られた成果を論文にまとめると同時に、解析領域を南極海氷域に拡張する予定である。具体的には、1.海氷漂流速度分布データを用いて得られた北半球海氷域の解析結果を論文にまとめること、2.北半球と同様の解析を南極海氷域でも行い、北極海との類似点や相違点を明らかにすること、また、昨年度の研究成果を発展させて、3.北極海を対象として衛星SAR画像から冬季の変形氷を抽出するアルゴリズムの開発に取り組む方針で、内容は以下のとおりである。
1.について、北半球全体を対象に同一基準で海氷を塑性体として扱うレオロジーの妥当性が確かめられ、力学的変数の経年変化を明らかにできた点には新規性があると考えられる。そこで、10月ころに海氷力学を専門とする研究協力者(ハッチングス博士、米国オレゴン州立大学)を訪問して十分議論を行い、論文の執筆にとりかかる。
2.について、研究分担者(木村)が南極海を対象とした海氷漂流速度データを整備したので、このデータを用いて南極海をいくつかの海域に区分してそれぞれの海域で北半球と同様の解析を行う。注目する点は、海氷域を粘塑性体として扱うレオロジーの妥当性の検証、解析結果の北極域との比較である。特に南極海の海氷域は2015年を境に急激に減少しており、この変化が力学的変数の特性にどのような影響を与えたかに留意したい。
3.について、できれば入射角補正をした後方散乱係数(HH)の分布について観測データを基に検証を行ったうえで取り組む。検証に用いるデータとしては、現場観測データ(MOSAiC)や衛星高度計データ(ICESat-2)から得られる表面凹凸が候補であり、冬季限定で変形氷を抽出するアルゴリズムの開発を行う。
得られた解析結果は分担者および研究協力者と十分に議論し、研究成果は論文や学会等で発表する。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由は①解析結果の議論を目的として研究協力者(ジェニファー・ハッチングス、米国オレゴン州立大学)を訪問する予定であったが、海外渡航費の高騰により、資金が十分でなかったこと、②論文投稿料を予定していたが、執筆に少々遅れが生じたことによる。①については、次年度10月ころに実施予定であり、②については執筆準備を進めているところである。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [国際共同研究] アルフレッドウェーゲナー極地海洋研究所/ブレーメン大学(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      アルフレッドウェーゲナー極地海洋研究所/ブレーメン大学
  • [国際共同研究] オレゴン州立大学(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      オレゴン州立大学
  • [雑誌論文] 巡視船「そうや」を用いたオホーツク海における海氷観測のあゆみ2024

    • 著者名/発表者名
      豊田威信
    • 雑誌名

      低温科学

      巻: 82 ページ: 25-44

    • DOI

      10.14943/lowtemsci.82.25

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Improvement of sea ice thermodynamics with variable sea ice salinity and melt pond parameterizations in an OGCM2024

    • 著者名/発表者名
      Toyoda Takahiro、Sakamoto Kei、Toyota Takenobu、Tsujino Hiroyuki、Urakawa L. Shogo、Kawakami Yuma、Yamagami Akio、Komatsu Kensuke K.、Yamanaka Goro、Tanikawa Tomonori、Shimada Rigen、Nakano Hideyuki
    • 雑誌名

      Ocean Modelling

      巻: 187 ページ: 102288~102288

    • DOI

      10.1016/j.ocemod.2023.102288

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 海氷漂流と内部波伝播の共鳴相互作用による アイスバンドパターン形成2024

    • 著者名/発表者名
      佐伯立、三寺史夫、馬目歩美、木村詞明、浮田甚郎、豊田威信、中村知裕
    • 雑誌名

      低温科学

      巻: 82 ページ: 195-210

    • DOI

      10.14943/lowtemsci. 82. 195

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Formulation and validation of resistance prediction scheme for ships in ice regime described in WMO egg code2024

    • 著者名/発表者名
      Uto Shotaro、Matsuzawa Takatoshi、Shimoda Haruhito、Wako Daisuke、Toyota Takenobu
    • 雑誌名

      Cold Regions Science and Technology

      巻: 221 ページ: 104159~104159

    • DOI

      10.1016/j.coldregions.2024.104159

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Backward-tracking simulations of sea ice in the Sea of Okhotsk toward understanding of material transport through sea ice2023

    • 著者名/発表者名
      Kuga Mizuki、Ohshima Kay I.、Kishi Sachiko、Kimura Noriaki、Toyota Takenobu、Nishioka Jun
    • 雑誌名

      Journal of Oceanography

      巻: 80 ページ: 59~70

    • DOI

      10.1007/s10872-023-00706-4

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Regional characteristics of sea ice dynamics and its interannual variability in the Northern Hemisphere2024

    • 著者名/発表者名
      Toyota, T., N. Kimura, J. Hutchings
    • 学会等名
      JpGU (May 2024) (予定)
    • 国際学会
  • [学会発表] New method for estimating sea ice age, International Symposium on Okhotsk Sea and Polar Oceans2024

    • 著者名/発表者名
      Kimura, N., H. Hasumi
    • 学会等名
      International Symposium on Okhotsk Sea and Polar Oceans
    • 国際学会
  • [学会発表] A study on the properties of granular ice from laboratory experiments2023

    • 著者名/発表者名
      Toyota, T., Y. Yamashita, H. Koda
    • 学会等名
      International Symposium on Sea Ice, The International Glaciological Society
    • 国際学会
  • [学会発表] The interannual variability of sea ice area, thickness, and volume in the southern Sea of Okhotsk and its likely factors2023

    • 著者名/発表者名
      Toyota, T., N. Kimura, J. Nishioka, M. Ito, D. Nomura, H. Mitsudera
    • 学会等名
      IUGG The 28th General Assembly
    • 国際学会
  • [学会発表] History, methods, and findings of the Okhotsk sea-ice observations onboard SOYA over 25 years2023

    • 著者名/発表者名
      Toyota, T.
    • 学会等名
      International Workshop on Arctic Ocean Observation: Future Collaboration by Research Vessels and Icebreakers
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] On the seasonal variations of L-band SAR signals in the Arctic MYI area and the possibility of detecting deformed sea ice2023

    • 著者名/発表者名
      Toyota, T., C. Haas, G. Spreen
    • 学会等名
      The Joint PI Meeting of JAXA Earth Observation Missions FY2023
    • 国際学会
  • [学会発表] ビデオ画像解析から探るオホーツク海南部 のアイスアルジ分布特性2023

    • 著者名/発表者名
      豊田威信・西岡純・久賀みづき・村山愛子
    • 学会等名
      低温科学研究所 共同研究研究集会「知床とオホーツク 海の海氷-海洋-物質循環-生態系の連関と変動」
  • [学会発表] 北極海氷の数ヶ月予測手法の改良:海氷年齢と海氷厚2023

    • 著者名/発表者名
      木村詞明, 羽角博康, 大山元夢, 山口一
    • 学会等名
      日本海洋学会秋季大会
  • [学会発表] 衛星データを用いた海氷年齢・海氷厚推定手法の改良2023

    • 著者名/発表者名
      木村詞明, 羽角博康
    • 学会等名
      日本気象学会秋季大会
  • [図書] 北極域の研究 ―その現状と将来構想2024

    • 著者名/発表者名
      北極環境研究コンソーシアム長期構想編集委員会 編(分担執筆)
    • 総ページ数
      480
    • 出版者
      海文堂出版
    • ISBN
      978-4-303-56230-4

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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