研究課題/領域番号 |
22K12342
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
増田 良帆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 特任研究員 (40421911)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物プランクトン / 北極海 / 一次生産 / SCM |
研究実績の概要 |
昨年度に共同研究者から、モデルと観測データとの比較をもっと充実させた方が良いという指摘を受けたので、今年度は海洋研究開発機構の北極環境変動総合研究センターの研究者から北極観測航海で得られたデータを提供して頂いた。チュクチ海、ボフォート海の海氷が無い海域において、我々は観測で得られた一次生産の鉛直分布とクロロフィルの鉛直分布の関係を我々が開発した海洋生態系モデル(FlexPFT-3D)のシミュレーション結果と比較した。この海域において、クロロフィル濃度が最大となる深度(SCM深度)は0m~70mの範囲を取り、モデルはこの範囲をよく再現している。観測で一次生産が最大となる深度は、モデルにおけるのと同様に、SCM深度より浅くなる。もし、従来研究で考えられていたように表層栄養塩枯渇によって、SCMが形成され、SCMの周囲で強い一次生産が生じるというケースのみが現実海洋で生じているなら、一次生産最大深度とSCM深度は比較的近くなるはずである。実際には、観測は一次生産最大深度がSCM深度より顕著に浅くなるケースがしばしば存在することを示しており、光馴化による鉛直方向の細胞内クロロフィル含有量の変化が、他の海域と同様に北極海でもSCM形成に重要なメカニズムであると考えられる。 モデルの開発も並行して進めており、気象研究所で開発された海洋大循環モデルMRI.comと結合したFlexPFT-3Dに加えて、海洋研究開発機構で開発された海洋大循環モデル(地球システムモデルMIROCの海洋部分)ともFlexPFT-3Dを結合することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既にMRI.comと結合した海洋生態系モデルで計算された北極海のシミュレーション結果は北海道大学のサーバに格納されていたが、2022年度の後半にサーバーが故障するという問題が生じた。当初は2023年度予算で故障の修理を行うことを計画していたが、事務手続きに時間を要している間にサーバーの故障が復旧不可能なレベルまで進行してしまい、サーバーを廃棄せざるを得なくなった。事前に本当に重要なデータはハードディスクにバックアップをとっていた為に致命的な事態にはならなかったが、このトラブルの対処にかなりの時間を要したのが進捗を遅らせた主な原因である。 一方、本研究実施者の北大から海洋研究開発機構への異動に伴うFlexPFT-3Dの実行環境の整備は順調に進行した。海洋研究開発機構の大型計算機(地球シミュレータ)上で問題なくFlexPFT-3Dの計算が出来るようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究では北極海の海氷下にも高濃度のクロロフィルが存在して一次生産が生じており、特に海氷上に融解水の層(メルトポンド)が存在している時に活発な一次生産が生じていることが分かっている。これはメルトポンドが存在すると、海氷表面での反射光(アルベド)が減少し、結果として海氷を透過して海氷下の海水に到達する太陽光が増加するためである。以前の我々のモデルではこのメルトポンドの存在による海氷透過光の増加が必ずしも十分に表現されていなかった。今後、協力者の海氷モデラーの助力によって、メルトポンドによる海氷透過光の増加を導入する予定である。この改良によって、気候変動に伴って北極海の気温が上昇するとメルトポンド形成を通じた海氷透過光増加によって植物プランクトンの一次生産が増加するというプロセスが表現できるようになる。 これ以外の様々な点についてもモデルの改良を行うのと同時に、これまでに得られた成果の論文化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、研究代表者が北海道大学に在籍し、北海道大学の大型計算機を用いて海洋生態系モデルの計算を行うことを予定していた。実際には、研究代表者が2022年度4月から海洋研究開発機構に異動した為、モデルの主要な実行環境を北海道大学の大型計算機から海洋開発研究機構の地球シミュレータに変更する必要が生じた。実行環境の移行に時間を要した為、研究計画の実施も後ろ倒しとなっており、これに伴って予算の使用も後ろ倒しとなっている。 今後の北極海のシミュレーションは主に地球シミュレータで行う予定であるが、北海道大学の大型計算機も使用するので、次年度の大型計算機利用料に充てる。
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