研究課題/領域番号 |
22K12369
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
島田 幹男 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (20548557)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高LET放射線 / 染色体不安定性 / がん治療 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は高い線エネルギー付与(高LET)効果を持つ重粒子線が低LETであるX線やガンマ線と比較して細胞に照射時に高い確率で細胞分裂死を誘導する現象に着目し、その分子メカニズムの解明を目指すものである。 がん化した細胞は半数以上がp53遺伝子に変異を持つことが知られている。そのため転写産物であるp53タンパク質依存的な細胞死であるアポトーシスの活性が低下しているためにがん細胞では低LET放射線によるアポトーシスの誘導が十分ではないという課題があった。一方で高LET放射線である重粒子線はp53に依存しない細胞分裂死を高頻度で誘導することが知られており、低LET放射線より高いがん治療効果を示すが、その作用機序に関しては不明な点が多かった。そこで、本研究では重粒子線がいかに細胞に対して細胞分裂死を誘導するか、分子メカニズムの解明を目指す。そのために高LET放射線が細胞内の染色体に損傷を与える際、低LET放射線と比較して複雑な損傷を与えるために、染色体の3次元構造レベルで大きな変化を及ぼすと仮定してその解明を染色体立体配座補足法を用いて解析する。さらに細胞分裂の際に正確に染色体を分配するために必要な中心体の数の維持に高LET放射線が影響を与えることは申請者が以前に報告済みであるが、本課題では中心体タンパク質やDNA修復タンパク質の関与など、分子レベルでの解析を進める。 構造、分子レベルでの解析により高LET放射線による効率的ながん細胞への細胞分裂死の誘導メカニズムの解明を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は重粒子放射線の細胞内染色体への作用機序を明らかにするものであるために、重粒子放射線を照射可能な国内施設の一つとして量子科学研究開発機構千葉地区医学生命科学部門重粒子照射施設(HIMAC)との共同研究を実施している。2022年度は計7回放射線照射のためにHIMACにおいて細胞照射実験を実施した。用いた細胞はヒト網膜上皮正常細胞であるRPE1-hTERT、ヒト大腸がん細胞HCT116およびゲノム編集によりp53遺伝子をノックアウトした細胞HCT116 p53-/-を使用した。また、幹細胞の染色体維持機構と比較するために幹細胞のモデル細胞としてヒトiPS細胞を用いた。これらの細胞に炭素線および鉄線を照射後、1、4、8、24時間経過後にタンパク質を抽出しウエスタンブロッティング解析を実施するためのサンプリング、あるいは細胞を固定し、免疫染色解析を実施した。DNA損傷を検出するためのマーカーとしてウエスタンブロッティングではリン酸化H2AX、リン酸化KAP1、免疫染色ではリン酸H2AX、53BP1のフォーカス形成を確認した。また、高LET放射線と比較するために低LET放射線照射として申請者所属の東京工業大学コバルト60照射施設において細胞へのガンマ線照射実験を実施した。現在、得られた結果を解析し、高LET放射線照射と低LET放射線照射の染色体への影響の差を検討中である。 一方で染色体立体配座補足法(Hi-C)は高LET放射線照射後の染色体の立体構造を解析するために有用な方法であるが、次世代シークエンスによる大規模データが公共データベースに保存されている。これらの結果を抽出し、解析する準備を現在進めており、概ね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において量子科学研究開発機構千葉地区医学生命科学部門重粒子照射施設(HIMAC)において計7回の細胞照射実験を実施したが、2年目である2023年度も引き続き、前期において2回のマシンタイムを配分されているために細胞照射実験を実施する予定である。また、申請者所属の東京工業大学コバルト60照射施設においてもコントロール実験としてガンマ線を用いた低LET放射線照射を実施する。初年度と同様にウエスタンブロッティング法と免疫染色法を用いて解析を進めていく。 また、染色体立体配座補足法(Hi-C)を用いた解析はすでに公共データベースに存在する照射サンプルの次世代シークエンスのデータを抽出し、解析する実験でも十分なデータが得られることから、引き続き解析を進めていく。
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