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2022 年度 実施状況報告書

オートファジーとPLK1キナーゼの機能亢進を介したがん細胞の放射線抵抗性獲得機構

研究課題

研究課題/領域番号 22K12370
研究機関京都大学

研究代表者

古谷 寛治  京都大学, 生命科学研究科, 講師 (90455204)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードPLK1 / リン酸化 / DNA損傷 / ヒストン / 機械学習
研究実績の概要

がん細胞は、DNA損傷ストレスに耐性を示す異常な細胞増殖を続けることが知られている。これまでに我々は、DNA損傷ストレス耐性を生む機構の一つとして細胞増殖促進キナーゼであるPLK1がゲノムDNA損傷の感知機構を抑制し、増殖停止が起こりにくくなる仕組みが考えられることをこれまでに報告してきていた 。実際、PLK1は、がん細胞において高発現となり、それにより、放射線療法や化学療法に対する抵抗性を生む。先の課題の中で、我々はがん情報データベースの解析を行うことで、がんの中にはPLK1の発現の高いものや、発現の低いものまで存在することを見出し、PLK1の発現が高いがんにおいてはオートファジー経路が亢進していることを示唆する結果を得ていた。オートファジー経路は、がん細胞において、がんの生存戦略として悪用されており、一つのモデルとして、タンパク質分解制御を通じ、ネットワークのバランスを変化させることも示唆されている。しかしながら、がん抑制やがん増殖促進といったそれぞれの側面がオートファジー経路のどのような機能を反映しているかはわかっていなかった。今回、我々は、PLK1発現と放射線発がんとの関連を見出す目的でPLK 1が高発現するがん細胞株では高線量の放射線照射を高線量率にて行った。PLK1のリン酸化が亢進し、オートファジー機構の活性化を示し(LC-3の部分分解の亢進)、逆に定線量率においてはこれらの挙動は見られなかった。今回、がん特異的なネットワークの検出を目的として、新たな手法を取り入れた。具体的にはゲノムストレスに応じて引き起こされる、リン酸化シグナルの変化をDNA損傷マーカーである、g-H2AXの輝点のパターンにて行うというものである。がん特異的なg-H2AXパターンの抽出に機械学習を用いることで成功したので報告する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

近年、機械学習解析種の発展が、画像解析において大きな成果を上げている。人工知能は、人間の目では検出できない微妙な変化やパターンを識別し、その中に埋もれたルールを抽出することに長けている。今回はPLK1の高発現による、がん細胞特異的な遺伝子ネットワークを抽出することを最終目標に、新たな手法として機械学習解析を取り入れた。これまでにない画期的な手法であり、これまでの分子生物学的な知見を大いに活用しうる手法である。機械学習解析には、教師あり機械学習と教師なし機械学習がある。教師あり機械学習では、私たちがあらかじめつけた正解を学習した学習モデルを使い未知のデータが正解かどうかを判定する。また、教師なし機械学習では検出したパターンの似ているものをグループ化する。本研究では、これらの機械学習の両手法を用いることで、正常細胞型とがん細胞型を見分けることに成功した。これは今後、PLK1に特異的なシグナル伝達経路を判定する一つのリードアウトとして活用できる。従って大きな進歩であると言える。

今後の研究の推進方策

今後はこの2-3年取り組んでいるなかで得た本申請課題に則り、データ駆動型の手法と分子生物学的手法の両輪でPLK1に依存したネットワークとオートファジーとの関連性について紐解く。今回の進歩は機械学習解析を一つの指標として、遺伝子ネットワークの目的とする分子が関わるかの可否を判断しうるという知見に辿り着いたことである。昨年度は、イメージングの対象としてg-H2AX(リン酸化H2AXヒストン)を用いたが、今後はそれをPLK1や、PLK1のリン酸化フォーム、あるいはダメージセンサーであり、PLK1の標的因子であるRAD9, オートファジータンパク質であるLC-3など、ストレスに応じて可変的な挙動をする因子を標的として機械学習解析にてがん特異的なシグナルパターンを抽出できるかにも着手すれば、目的とするオートファジー、PLK1に依存したネットワークをより正確に抽出できるようになることが期待できる。もちろん、g-H2Xの輝点でポジティブな結果がすでに出ていることから、このg-H2AXのシグナルパターンの変化を指標に、種々の遺伝子ノックダウンを放射線量や線量率を変化させて、放射線影響におけるがんシグナルの意義を探ることも続ける。

次年度使用額が生じた理由

研究の成果をより確実なものにするため、本年度は、in silico、すなわち機械学習解析の解析を主に行なった。当初計画していた実験生物学に用いる経費を翌年に持ち越すことになったが、より精度の高いデータが期待できるため、研究計画には影響がない。逆に、目標とするリードアウトが明確になり、これまでの懸念であった、PLK1とオートファジーの複雑な関係性を紐解くことが可能になったと考えている。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (3件)

  • [雑誌論文] Machine learning extracts oncogenic‐specific γ‐H2AX foci formation pattern upon genotoxic stress2023

    • 著者名/発表者名
      Furuya Kanji、Ikura Masae、Ikura Tsuyoshi
    • 雑誌名

      Genes to Cells

      巻: 28 ページ: 237~243

    • DOI

      10.1111/gtc.13005

    • 査読あり
  • [雑誌論文] E‐cadherin‐dependent coordinated epithelial rotation on a two‐dimensional discoidal pattern2022

    • 著者名/発表者名
      Luo Shuangyu、Furuya Kanji、Matsuda Kimiya、Tsukasa Yuma、Usui Tadao、Uemura Tadashi
    • 雑誌名

      Genes to Cells

      巻: 28 ページ: 175~187

    • DOI

      10.1111/gtc.13001

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Impact of Nuclear De Novo NAD Synthesis via Histone Dynamics on DNA Repair during Cellular Senescence To Prevent Tumorigenesis2022

    • 著者名/発表者名
      Ikura Masae、Furuya Kanji、Matsuda Tomonari、Ikura Tsuyoshi
    • 雑誌名

      Molecular and Cellular Biology

      巻: 42 ページ: 1~16

    • DOI

      10.1128/mcb.00379-22

    • 査読あり
  • [学会発表] For understanding the mechanism how cancer cell acquire tolerance to radiation stress2022

    • 著者名/発表者名
      古谷寛治
    • 学会等名
      日本放射線影響学会 第65回大会
    • 招待講演
  • [備考] researchmap

    • URL

      https://researchmap.jp/kfuruya/presentations

  • [備考] 機械学習によるがん化シグナルに特異的なγ-H2AX fociパターンの抽出

    • URL

      https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-01-12-3

  • [備考] ゲノムストレス応答におけるNAD代謝変動―空間的NAD代謝エピゲノム制御の提唱―

    • URL

      https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-10-25

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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