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2022 年度 実施状況報告書

重粒子線、BNCT、アルファ線内用療法におけるDNA損傷と変異の関与

研究課題

研究課題/領域番号 22K12372
研究機関岡山大学

研究代表者

寺東 宏明  岡山大学, 自然生命科学研究支援センター, 教授 (00243543)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードDNA損傷 / 変異 / 重粒子線 / BNCT
研究実績の概要

本研究は、新しいがん治療法として実施されている重粒子線照射、BNCT、TRTなどの手法において、がん細胞にどのようなDNA損傷が生じ、その結果、どのような変異が誘起され、がん細胞が死滅するのかを明らかにすることを目的とする。実験はそれぞれの放射線(放射性物質)を培養細胞に処理し、培養細胞中に生じるDNA損傷と変異スペクトルを分析することにより、がん細胞に致死的影響を与える損傷と変異を明らかにする。さらに、細胞致死や変異との関係性を変異株やモデルDNA分子を用いて分析し、これらがん治療法の有効性に係る議論を行う。
初年度は上述した三種類の線種のうち、重粒子線とBNCTに注目して検討を行った。重粒子線は高LET放射線として、局所的な細胞傷害を引き起こすことから、修復困難で複製阻害効果の大きいクラスターDNA損傷を効率的に生じることが知られている。私はこれまでその損傷分析を行ってきたが、それによる変異生成については情報がまだ少ない。本研究では炭素イオン線を用いてその特異的な変異スペクトルを明らかにした。炭素イオン線照射は量子科学技術研究開発機構のHIMACを利用した。BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、ホウ素が中性子と効率的に反応することにより生じるアルファ線とリチウム線が、がん細胞を効果的に殺傷する。BNCTの先行研究においても、DNA損傷に注目した研究はほとんどなく、BNCTでの細胞傷害にどのようなDNA損傷が関与しているかは明らかではない。そこで、京都大学複合原子力研究所ならびに近畿大学原子力研究所の二つの研究炉を使って中性子線照射を行い、DNA損傷の分析と生存率を指標とした細胞傷害を観察した。その結果、中性子線のみの照射においてもガンマ線と比較して高い感受性とDNA損傷収率をみることができた。さらにBNCT条件においては、さらなる感受性の向上とDNA損傷の増加をみた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、重粒子線照射、BNCT、TRTなどの手法におけるDNA損傷と変異、それによって生じる細胞傷害を観察するが、初年度においてはそのうち重粒子線とBNCTという二つの放射線種によるDNA損傷と変異、細胞傷害に関するデータを収集することができた。重粒子線に関しては、これまでの損傷分析に加えて、変異スペクトルを明らかにすることにより、新たな細胞傷害ルートを解明することができた。変異スペクトルは精製したプラスミドDNAを炭素イオン線照射した後、大腸菌コンピテント細胞に導入し、クローン化した後、変異クローンのシークエンスを行った。コントロールとして用いたガンマ線と比較したところ、炭素イオン線によって全く違う変異スペクトルを得ることができた。
BNCTにおいては、培養細胞を原子炉中性子照射してDNA損傷分析と細胞傷害観察を行った。まず、BNCTを使わない中性子のみの照射実験をコントロールとして、その結果を解析し、次にBNCTによる照射実験を行うことにより、BNCT特異的な損傷種の解明を行うことができた。BNCT薬剤としてはBPAとBSHの二種類を用い、その違いも明らかにした。以上、初年度において三種類の線種のうち二種類について大きな成果を得ることができたことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

今後の研究の進め方としては、BNCTでまだ解析ができていない変異スペクトルの検討を行う。変異解析については重粒子線と同様に精製プラスミドDNAを用いた変異解析を行っていく。また、初年度に手がけることができなかったTATについては、2年度での検討をスタートする。TATではα線エミッターとして研究代表者の所属RI施設で利用できるRa-224化合物を培地に加えることによって処理を行い、同様にDNA損傷を分析する。TATでの変異スペクトルも重粒子線やBNCTと同様に行う予定である。TATにおける線量測定は培地中の放射性物質濃度から計算し、検討を行っていく。
研究遂行上の課題としては、重粒子線ならびにBNCTについてはそれぞれ量子科学技術研究開発機構のHIMAC、京都大学複合原子力研究所ならびに近畿大学原子力研究所の二つの研究炉を用いて照射実験を行うが、これらは全国共同利用施設であり、全国から多くの利用者が利用することから、配分されるマシンタイムに制限があり、それが研究遂行の律速になるという問題がある。このことについては貴重なマシンタイムを有効に使うために多くのサンプルを同時に照射する計画を立てるなど改善を行っていく。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由については、予定していたナノポアシークエンサーの購入ができなかったことによる。これはBNCTで使用するBPA(L-4-Boronophenylalanine)およびBSH(Na2[10B12H11SH])という二種類の海外製試薬の価格が値上げおよび為替の問題から高騰し、予算がナノポアシークエンサー購入に足りなくなったためである。ナノポアシークエンサーについては次年度に購入し、予定された研究計画を実行する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022 その他

すべて 学会発表 (2件) 備考 (1件)

  • [学会発表] 細胞培養用培地におけるラドンの溶解・散逸特性の時間依存性に関する検討2022

    • 著者名/発表者名
      村上海斗、片岡隆浩、直江翔太、藤本有希、雪峰諒平、田中歩、神﨑訓枝、迫田晃弘、寺東宏明、山岡聖典
    • 学会等名
      第46回中国地区放射線影響研究会
  • [学会発表] 原子炉中性子線によって生じるDNA損傷の特性について2022

    • 著者名/発表者名
      寺東宏明、齊藤毅、松田外志朗
    • 学会等名
      日本放射線影響学会第65回大会
  • [備考] 岡山大学 自然生命科学研究支援センター 光・放射線情報解析部門 鹿田施設 研究活動

    • URL

      http://hikari2.med.okayama-u.ac.jp/kenkyu.html

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公開日: 2023-12-25  

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