研究課題/領域番号 |
22K12385
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
鶴岡 千鶴 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 放射線影響研究部, 主任研究員 (60415411)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 放射線と微小重力模擬 / 複合ストレス / 発がん |
研究実績の概要 |
人類の深宇宙への進出や長期居住を考えると、微小重力や宇宙放射線などの極限的なストレスを長期的かつ複合的に受けることによる生体影響を明らかにすることは重要である。国内外では中枢神経系、循環器系、発がん等の影響研究が進められているが、この複合的に受けるストレスと発がんとの関係を報告した研究はない。そこで微小重力の模擬実験と放射線被ばくとを組み合わせて発がんの進行を定量的に評価することは重要である。本研究では、「微少重力模擬環境と放射線被ばくの複合影響は、発がんをどのように増強あるいは抑制し、それはどのようなメカニズムによるのか?」という問に答える。そのため、消化管腫瘍を発症するモデルマウスを用い、発がんの進行を定量的に評価するとともに、免疫機能や腸内細菌叢の変化などの関与を明らかにすることにより、複合影響が及ぼす発がんのメカニズムを明らかにする。 R4年度は、「①15週齢時における消化管腫瘍発生と生理的変化の解析」を行い、雄のC3B6F1 ApcMin/+マウスを作出し、「接地・非照射群」「接地・照射群」「尾部懸垂・非照射群」「尾部懸垂・照射群」4群の設定を行った。消化管腫瘍の発生数や腫瘍サイズ、およびがんの悪性度を調べた結果、照射と尾部懸垂の複合ストレスにより発生する消化管腫瘍は、照射のみの時よりも腫瘍数が増加傾向を示し、さらには発生した腫瘍は悪性化がしていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
R4年度は、「①15週齢時における消化管腫瘍の発生と生理的変化の解析」を行った。具体的には、雄のC3B6F1 ApcMin/+マウスを作出し、「接地・非照射群」「接地・照射群」「尾部懸垂・非照射群」「尾部懸垂・照射群」4群の設定をした。当初、R4年度前半に前述の設定を行う予定でいたが、雄のC3B6F1 ApcMin/+マウス作出のための雄C57BL/6J ApcMin/+マウスの準備に想定以上の時間を要し、実験群の設定時期が遅れてしまった。尾部懸垂終了の生後15週齢時に解剖を行い、消化管組織、免疫組織、糞便等を採取した。ストレスマーカーを観察する予定であった血清については、解剖時のアクシデントにより採取することができなかった。そのためR4年度では、消化管腫瘍の解析および免疫組織の解析を最優先に進めた。結果、「接地・非照射群」と「尾部懸垂・非照射群」では、消化管の腫瘍数およびサイズ、また悪性化に違いは観察されなかった。一方、「尾部懸垂・照射群」は「接地・照射群」に比べて腫瘍数の増加傾向が観察され、特にサイズの小さい腫瘍の増加が顕著であった。また、病理組織学的解析により、「尾部懸垂・照射群」では腺癌の頻度が増加しており、消化管腫瘍の悪性化が進んでいることが明らかとなった。免疫組織である胸腺および脾臓の重量には照射および尾部懸垂の影響は観察されなかった。「尾部懸垂・照射群」において一部脾臓において髄外造血像が観察した。当初予定していた糞便を用いた腸内細菌叢解析および血清を用いたストレスマーカーの測定ができなかったことにより、当初の予定よりもやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
R5年度前半では、R4年度で行うことのできなかった糞便を用いた腸内細菌叢解析を外注で行う。また、R4年度の結果より、尾部懸垂と放射線被ばくの複合的なストレスは発がんに影響することが明らかとなったため、「②15週齢までに生じる消化管腫瘍と生理学的変化の解析」を行うための動物実験を設定し、順次解剖を行いサンプルを採取する。
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次年度使用額が生じた理由 |
R4年度では、動物実験の設定に想定以上の時間を要したため、採取サンプルのうち消化管腫瘍の病理的解析を優先的に行った。そのため、予定していた糞便による腸内細菌叢解析の外注を行うことができなかった。そのため、R5年度前半で腸内細菌叢解析の外注を行う。
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