研究課題/領域番号 |
22K12391
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
立花 研 山陽小野田市立山口東京理科大学, 薬学部, 准教授 (10400540)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / エクソソーム / マイクロRNA / 神経幹細胞 / 慢性炎症 / 胎児期曝露 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子は様々な用途に用いられ産業の発展に寄与する一方で、様々な健康影響の原因となる。我々はこれまでに、胎児期のナノ粒子曝露が成長後の脳機能障害を引き起こすことを示してきた。ナノ粒子曝露による生体影響には、ナノ粒子が貪食細胞に取り込まれることで生じる慢性炎症が関わると考えられている。 マイクロRNAは正常な発生・発達に必須の分子であり、エクソソームに内包されて細胞外に放出され、周囲の細胞の機能を調節する。このことから、ナノ粒子曝露による慢性炎症がマイクロRNAおよびエクソソームの制御異常を引き起こすと考えた。本研究では、ナノ粒子曝露によって生じる貪食細胞由来エクソソーム内のマイクロRNA発現変動が神経幹細胞に及ぼす影響を調べ、ナノ粒子胎仔期曝露による脳機能障害の発生メカニズム解明を目指す。 これまでに、当研究室で所有しているマウス由来ミクログリア様細胞株(MG5)に対してシリカナノ粒子を曝露し、細胞毒性の生じない曝露濃度を決定した。この曝露濃度を用いてMG5細胞を処理し、培養後の上清からエクソソームの回収を試みた。MG5細胞は、培養にアストロサイト様細胞株(A1細胞)を培養した後に得られるconditioned mediumを必要とする。したがって、培養上清にA1細胞に由来するエクソソームが混入する恐れが考えられた。このため、conditioned mediumからA1細胞由来エクソソームを除去する手法を検討したが、効率の良い除去方法の確立は困難であった。これらの結果を受け、conditioned medium が不要なMG6細胞を入手し、MG5細胞を用いた実験系からMG6細胞を用いる実験系に変更した。MG6細胞に対し、細胞毒性の生じないシリカナノ粒子の曝露濃度を決定したため、今後、培養後の上清からのエクソソームの回収とマイクロRNA解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、ナノ粒子曝露によって生じる貪食細胞由来エクソソーム内のマイクロRNA発現変動を解析し、この変動マイクロRNAが神経幹細胞の分化能・増殖能および神経系細胞への分化過程における機能獲得に及ぼす影響の解析を主な研究内容としている。2023年度までに、ナノ粒子の毒性解析において標準的な粒子として用いられる粒子の一つであるシリカナノ粒子を用いて検討を行ってきた。本研究でナノ粒子を貪食する細胞として着目しているミクログリア様細胞株は市販されているものが少なく、現在使用しているMG5細胞はその一つである。この細胞はアストロサイト様細胞株(A1細胞)を培養した後の培地(conditioned medium)を用いて培養する細胞株である。したがって、MG5細胞にナノ粒子を曝露した後の培養上清にはMG5由来のエクソソームに加え、A1細胞由来のエクソソームが混入していると考えられる。このため、A1細胞由来のエクソソームを除く必要があり、その検討を行ったが除去方法の確立には至らなかった。同時にconditioned mediumが不要なミクログリア様細胞株を調査したところ、MG6細胞を入手することができたため、この細胞を用いた実験系に切り替えて検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に引き続き、ナノ粒子を貪食したミクログリア様細胞株(MG6細胞)から放出されるエクソソームについて、その中に内包されるマイクロRNAの解析を進める。MG6細胞に対し、細胞毒性を生じない濃度でシリカナノ粒子の曝露を行い、炎症性サイトカインの発現など、炎症性の反応が生じていることを確認する。また、ナノ粒子曝露後のミクログリア様細胞株の培養上清およびエクソソームが得た後、その中に内包されるマイクロRNAの発現変動を網羅的に解析する。さらに、バイオインフォマティクスを用いてそのマイクロRNAの標的分子(mRNA、タンパク質)の推定を行うとともに、ミクログリア様細胞由来エクソソームを神経幹細胞に処理し、増殖能・分化能をはじめ、どのような機能的変化を及ぼすか細胞レベルでの検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
エクソソームに内包されたマイクロRNAの網羅的解析に必要な費用を計上していたが、ミクログリア様細胞株から放出されるエクソソームの回収法に工夫が必要となり、マイクロRNAの解析に至っていない。このため、次年度使用額が生じている。2023年度の検討結果を基に実験系を変更したため、この問題は解決される見込みである。解析対象のエクソソームの回収ができ次第マイクロRNAを抽出し、計画にしたがって網羅的解析を行う予定である。
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