研究課題/領域番号 |
22K12394
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
根岸 隆之 名城大学, 薬学部, 准教授 (80453489)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ジフェニルアルシン酸 / 神経症状 / アストロサイト / ヒ素中毒 |
研究実績の概要 |
ヒ素化合物、特に亜ヒ酸、ヒ酸などの無機ヒ素化合物は世界的に環境汚染による健康被害(皮膚疾患、がん、代謝疾患、および神経疾患等)が問題となっている。これらの無機ヒ素化合物は、生体内で代謝され一般毒性の低いジメチルアルシン酸などの有機ヒ素化合物となる。一方で、2003年に茨城県神栖町で発生した井戸水のヒ素汚染事故における主因物質ジフェニルアルシン酸(DPAA)は、戦時に毒ガス兵器として開発されたジフェニルクロロアルシンやジフェニルシアノアルシンの原料として用いられた化合物である(注:DPAAは毒ガスではない)。このDPAAにばく露した住民は特徴的に小脳症状を発症した。DPAAはアストロサイト特異的に酸化ストレス応答因子の発現上昇やMAPキナーゼの異常活性化を引き起こすことで、神経細胞の機能に異常を引き起こし小脳症状の発症に至ると考えている。そこで本研究では、「有機ヒ素化合物の構造・細胞種・脳部位・毒性相関解析による脳神経系影響機序解明」と題し、DPAAとその関連代謝物(フェニルメチルアルシン酸、ジメチルアルシン酸)、そして亜ヒ酸による神経影響について、生物学的・分析化学的手法を用いて、in vitroで細胞種(神経細胞・アストロサイト・ミクログリア)特異性を、in vivoで脳部位(小脳・大脳皮質・海馬・線条体・中脳・延髄)特異性の有無・程度を評価することにした。これまでに主にラット小脳由来アストロサイトを用いて研究を行ってきたが、複数のヒト由来株化細胞やヒト小脳由来アストロサイトにおける影響をラット小脳由来アストロサイトと比較したところ、ヒト由来の細胞は抵抗性が高いもののやはりDPAAはアストロサイトに特異的に影響を与えることが明らかとなりその細胞種特異性の原因の解明を急いでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度も引き続き、主に培養細胞レベルでのヒ素化合物の影響評価を行った。これまでに明らかにしてきたラット小脳由来アストロサイトにおけるDPAAによる異常活性化を陽性対照として、ヒト神経細胞モデルとしてヒト神経芽細胞腫SK-N-SHをレチノイン酸により分化誘導を行ったうえで、未分化・分化によるDPAAの細胞毒性と形態変化における感受性の変化を評価した。また、ラット小脳由来アストロサイトにおいて、DPAAおよび関連ヒ素化合物はそれぞれ特徴的にグルタチオン放出やグルタチオンSトランスフェラーゼの活性化など細胞内外のグルタチオン代謝に異常を引き起こしていることを明らかにし、これらの異常と細胞内リン酸化シグナルの異常活性化の関係を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況は概ね順調である。令和6年度はDPAAの生体ラットへのばく露を行い、部位差を検討することで小脳特異性の原因の解明に努める。また、これまで培養細胞で得た知見との整合性を確認する。そして、本研究課題の総括を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として340,705円が生じたが、これは実験スケジュール上3月に行う実験の試薬を可能な限り納入から時を置かずに使用したいためのものであり、実際令和6年3月のうちに購入したので、実際の次年度使用額は少ない。そして、実験計画に従い、令和6年4月に入りすぐに消耗品購入に使用し、経費執行を依頼した。
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