研究課題/領域番号 |
22K12397
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
石井 雄二 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 室長 (70544881)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アセトアミド / 小核 / クロモスリプシス |
研究実績の概要 |
食品汚染物質であるアセトアミドのラット肝発がんのキーイベントである大型小核の形成機序を明らかにするため,F344ラットにアセトアミドを3750 mg/kg体重の用量で単回投与後,1,2,4,6,12,24,48,72及び120時間後の肝臓を採取した.肝臓小核試験の結果,大型小核は投与後24時間から観察され,48時間で最大となったのに対し,通常の小核の出現頻度に変化は見られなかった.病理組織学的検索の結果,二核のうち一方が不整形を呈し小型化(主核の1/2以上)した二核肝細胞はAA投与4時間後から,さらに小型化した核(主核の1/4~1/2)をもつ二核肝細胞は投与12時間から認められ,24時間後でそれらの数は最大となった.48時間後には肝細胞のアポトーシス像が高頻度にみられ,これらの小型化した核を有する二核肝細胞は減少したが,大型小核を有する肝細胞の出現を認めた.免疫組織学的検索では,投与4時間後から核膜の修復に寄与するタンパクであるBAFの異常発現が見られ,12時間後には小型化した核において H3K9me3で示されるヘテロクロマチン領域の拡大,24時間後には小型化した核の一部でLamin A/C及びB1の欠損と同部位におけるBAFの発現が観察された.病理組織学的検査及び核の形態学的検査の結果から,AAが誘発する大型小核は二核化した肝細胞から一方の核の小型化を経て形成されることが示唆された.また,小型化した核では核ラミナの消失やBAFの集簇がみられたこと,投与早期では形態学的に正常な核にも核膜のBAFの異常発現がみられたことは,核膜異常が核の小型化及び大型小核の形成のイニシャルイベントであることを示唆するものと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に研究計画はすべて実施し,大型小核が二核肝細胞から形成されるという仮説に対し,それを裏付けるためのデータを取得することができた.一方,その機序については未だ解明に至ってはおらず,令和5年度以降は当初計画していたin vitroにおける検索だけでなく,引き続きin vivoでの検索を継続する.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度計画はin vivoでの核膜異常の機序検索に加え,in vitroでの検索を実施する.F344ラットから肝実質細胞をコラゲナーゼ還流法により調整後,初代培養し実験に供する.MTT法によりアセトアミドの細胞毒性を評価し,未処理対象に比べて細胞生存率が70%以上となる用量を求める.該当用量のアセトアミドで処理した初代肝細胞を24時間まで経時的に観察し,大型小核の形成に至るまでの形態学的変化を明らかにする.また,タイムラプス観察装置による小核形成過程の撮影も試みる.変化が観察された際には、免疫組織化学染色法により大型小核形成過程における核膜構成タンパク,DNA損傷及び修復酵素の発現変化,クロマチン構造変化等について,令和4年度のin vivo実験の結果をもとに相補的に解析を進める.また,BrdUを用いたS期細胞のラベルやサイトカラシンを用いた細胞分裂阻害により,小核の形成と細胞分裂の関係についても検討する. 令和6年度計画はラット肝臓においてアセトアミドと同様の細胞質内封入体を形成することが知られているメチルカルバメートをはじめ,アセトアミドの類縁化合物,N-ヒドロキシアセトアミド,N-メチルアセトアミド,N,N-ジメチルアセトアミド,プロピオンアミド,2-クロロアセトアミド,グリコールアミド等についてラットを用いたin vivo試験または初代肝細胞を用いたin vitro試験により大型小核形成を評価し,構造活性相関に関する情報を得る予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大防止のため,参加を予定した学会がWeb開催となり旅費の支出が予定よりも少なかった.次年度の研究計画に追加されたin vivoにおける核膜異常の機序検索を実施する.
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