研究課題/領域番号 |
22K12399
|
研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
平尾 茂一 福島大学, 環境放射能研究所, 准教授 (30596060)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | トリチウム / 大気水蒸気 / HTO / 短期連続観測 |
研究実績の概要 |
原子力関連施設周辺の大気中放射性核種の高い時空間解像度での測定は、施設影響評価のために極めて重要である。施設周辺の大気水蒸気中トリチウム観測は、これまで電源供給の問題から任意の場所での観測が困難であった。そこで本研究では、商用電源不要で短時間の連続観測が可能な観測装置(パッシブサンプリング装置)を開発し、実環境への適用可能性を検討するとともに、実際のトリチウム濃度の短時間変化をとらえ、その変動要因と大気放出の関係性を解明することを目的としている。今年度は、短期間・連続捕集可能な大気水蒸気中トリチウムの捕集装置を新たに製作し、その性能の検討を行った。水蒸気状トリチウムの捕集剤を検討した結果、温度17~30 ℃、絶対湿度8~17 g/m3の条件下において、6時間で約20 mlの水量を捕集できることが分かったものの、予想に反して捕集水量は少なかった。外気接触面付近の捕集剤のみが水蒸気捕集に寄与し、接触面から3cm以上の深さは捕集に大きく寄与しないことが明らかとなり、ある程度の外気暴露面積が必要であることが分かった。本研究の当初、捕集装置に電池駆動の小型アクチュエータ等を組み合わせた制御部で、複数の封入容器を時間差で開閉させる構造を想定していた。しかし基礎実験の結果、広い開口面積を持つ容器で外気暴露させる必要があることが分かり、完全なパッシブサンプリング法では密閉性を保てないとの結論を得た。そこで、小型の可搬型ポンプ、流路切り替え用の電磁弁、および制御機器に低消費電力の機器を組み合わせることに加え、屋外設置可能なポータブル外部電源の供給を補助的に用いることで、商用電源が不要な観測装置が開発できる見込みを得た。ポンプによる外気導入量と水蒸気捕集剤充填量の実験結果より、1つの充填容器の最適な条件を決定し、本自動連続観測装置により24時間(8時間×3回)の条件で観測できることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
商用電源不要、放射能分析が可能な水量の捕集、捕集時間で捕集効率が一定、の条件を達成する大気水蒸気状トリチウムの連続観測装置の開発を実施した。水蒸気捕集剤の性能試験結果を踏まえ、捕集容器の密閉性の観点から、当初目指していた装置から構造を変更し、可搬型ポンプ、逆止弁付き電磁弁、および制御機器に低消費電力の機器と、屋外設置可能なポータブル外部電源を組み合わせることで、屋外で設置場所を制限されないサンプラーを構築した。世界的な半導体基板の供給不足により、若干の遅れが生じたものの、当所の目的をおおむね順調に達成していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に開発した大気水蒸気状トリチウム捕集装置を用い、実環境で大気水蒸気中トリチウムの短期連続観測を実施する。大気水蒸気中トリチウム濃度の実測値と現地の気象項目(風向、風速、温度、湿度)の関係を明らかにする。大気輸送過程の観点から、トリチウム濃度の時間変化と変動要因を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の経費が当初の想定より低く抑えられたため、次年度への繰り越しが生じた。次年度予算は、実環境で大気水蒸気中トリチウムの短期連続観測の費用として使用する。水蒸気捕集剤に吸着した水分子を回収するための加熱装置の購入、パッシブサンプラー装置に関係する捕集容器、制御装置等の購入を中心とし、また成果発表のための費用とする。
|