研究課題/領域番号 |
22K12401
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉原 奈央子 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員 (00896243)
|
研究分担者 |
浅沼 尚 東京大学, 京都大学, 環境学研究科 (90852525)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | スクレロクロノロジー / リン / 物質循環 / 二枚貝 |
研究実績の概要 |
世界的に台風の巨大化や局地的な豪雨の増加が問題になっている。降雨の増加は栄養塩負荷を増大させ、プランクトンの異常繁殖や海底の貧酸素化を促進し、漁業生産力の低下や生態系の劣化を引き起こす。環境変化に伴って沿岸域における栄養塩類の動態も変化することが予想されるが、その影響を正確に把握するためには長期的かつ広域の環境データが必要不可欠である。しかし、栄養塩類の観測は試料の採取から分析工程まで多大な労力と時間を要するため、観測頻度や範囲が制限されるという課題があった。そこで、申請者らは環境モニタリングの時空間解像度を向上させるために、二枚貝殻やサンゴ骨格のような生物硬組織を利用した遡及的環境モニタリング法を提案する。本研究では特にこれまで未解明だった環境中のリンと二枚貝殻中のリン濃度の関係に注目した。二枚貝殻中のリン濃度の変遷から環境中のリン濃度の変遷を復元する手法を確立し、これまで調べられている環境指標元素や安定同位体比蘇生と合わせて分析することで、沿岸域の栄養塩動態や物質循環の解明を目指す。初年度は貝殻中のリンを分析するための手法を確立するために、東京湾から採取した二枚貝(ホンビノスガイ)の貝殻断面をLA-ICP-MSで分析した。また採取場所付近の環境データをコンパイルし、Mn、Mo、Mg、Srなど、水温、酸化還元状態、植物プランクトンのブルームの指標となるような元素を中心に多元素同時分析した結果と合わせて解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は計画書に記述した「貝殻中のリン濃度を調べる」から着手した。東京湾にて漁船を傭船し、二枚貝を採取した。今回採取できたのはホンビノスガイであった。採取した二枚貝は最大成長軸に沿って切断研磨し、成長方向に沿って、約3 cm分LA-ICP-MS分析した。分析対象元素はリンの他にマンガン、モリブデン、マグネシウム、ストロンチウムなど、水温、酸化還元状態、植物プランクトンのブルームの指標となるような元素を中心に多元素同時分析を実施した。その結果、貝殻中のリンの濃度は貧酸素や陸起源物質流入の指標となるマンガンと概ね同調していることが明らかとなった。 さらに、貝殻中の元素濃度と採取場所の環境データベースを対応させるため、データベース資料のコンパイルを行って解析中である。これに加えて貝殻形成時の水温の指標となる酸素安定同位体比を分析済みである。今後はこれらのデータを複合的に解析して、貝殻中のリンの変動とその他の環境パラメータの変動について解明する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
計画書で記述した、環境中のリンの測定について、今後測定システムを構築する必要がある。測定システム構築ののち、フィールドサンプリングを実施する。春(ブルーム)、秋(貧酸素)、冬(循環期)の3回と大雨からおよそ1週間以内のサンプリングを実施し、リンの存在形態が季節や環境の違いでどのように異なるのかを調べる。現場では水温、塩分、堆積物の酸化還元電位など基本的な環境項目を測定する。採取した海水および堆積物はそれぞれ必要な前処理を行ったのち、海水は流入の指標として全リン(TP)、生物利用可能なリン酸態リン(PO4-P)、クロロフィル量を測定する。堆積物は横山ら(2008)に従って、TP、海水抽出リン(Ads-P)、クエン酸抽出リン(CDB-P)、アルミニウム態リン(Al-P)を分析する。Fe-PはCDB-PとAds-Pの差分を求める。堆積物中のリンのそれぞれの画分は特定の物理化学的条件下で海水中に遊離し、生物利用可能な形態に変化する可能性を持っている。埋在性の二枚貝は堆積物境界層の複雑なリンの動態の影響を受けると考えられるため本研究では環境中、特に堆積物のリンの存在形態を詳細に調べる。さらに、堆積物中の有機物の由来を反映する炭素・窒素安定同位体比を測定する。必要があれば柱状堆積物の培養実験などを行い、リンの溶出について調べる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度計画していた分析を翌年度に集中して実施することにしたため。 環境試料採取のためのコアパイプを購入予定である。
|