テトラブロモビスフェノールA (TBBPA)は世界で最も主要な難燃剤である。ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)は近年まで使用されていた難燃剤であるが、その毒性のため日本では2014年に原則製造及び使用が禁止された。TBBPAやHBCDは培養神経細胞において神経細胞死を引き起こすことが報告されているが、その詳細なメカニズムは明らかではない。TBBPAとHBCDにより引き起こされる神経毒性の発現メカニズムを明らかにするため、神経モデル細胞であるPC12細胞にTBBPA及びHBCDを24時間処置し、RNA-seqにより網羅的に遺伝子発現を解析した。発現変動遺伝子の検出及びエンリッチメント解析はiDEP.95により実施した。TBBPA及びHBCDの処置により濃度依存的なPC12細胞毒性が観察された。TBBPAの処置により636個、HBCDの処置により271個の発現変動遺伝子がそれぞれ検出された。エンリッチメント解析によりTBBPA及びHBCDのいずれの処置においても、GO term “endoplasmic reticulum unfolded protein response”でアノテーションされた遺伝子の発現が上昇していることが明らかとなった。リアルタイムPCR及びウェスタンブロット解析により、TBBPA及びHBCD処置後に小胞体ストレス関連遺伝子及びタンパク質の発現が上昇することを明らかにした。さらに、TBBPA及びHBCDの処置により、ネクロトーシス関連因子の発現が上昇していた。以上の結果より、臭素系難燃剤であるTBBPA及びHBCDはPC12細胞において小胞体ストレス応答を誘導し、神経毒性を引き起こすことが示唆された。
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