研究課題
アジア諸国では、都市人口増加率に対して下水処理システムの整備が遅れているため、未処理あるいは浄化処理の不十分な工場廃水・生活雑排水・し尿排水が都市河川へ流出することによる顕著な水質汚染が社会問題となっている。本年度は、ベトナムとタイにおいて、下水処理場の流入水と放流水、用水路と河川の表層水試料を採集し、農薬類236種、医薬品類93種、パーソナルケア製品由来物質17種、人工甘味料3種、ビスフェノール類11種を対象に、汚染実態と生態リスクを解析した。その結果、ベトナムの河川水とタイの用水路において、人工甘味料のAcesulfameとSaccharin、パーソナルケア製品に含まれる防腐剤のParaben類が、日本や欧米諸国の5〜10倍高い濃度で検出された。それらの物質は、今回調査したベトナムとタイの下水処理場において、大部分が除去されていたことから(除去率:>90%)、それら化合物の都市河川や用水路における高濃度残留は、未処理あるいは浄化処理の不十分な家庭雑排水・し尿排水の河川への流入を強く示唆している。生態影響評価の結果、ベトナムでは、農薬類11種とPPCPs 5種が生態リスクの懸念ありと判断された。特に、Thiamethoxamについては、複数の節足動物を対象にした種の感受性分布(SSD)により推定されたHC5は129 ng/L、PNECは43 ng/Lと報告されており、ハノイのNhue RiverおよびTrang Mihnの用水路の全ての採取地点においてPNECを超過していた。タイでは、農薬類6種とPPCPs 5種が生態リスクの懸念ありと判断された。特に、Fipronilは、用水路とチャオプラヤ川の全ての採取地点において、海産甲殻類アミに対する成長阻害をエンドポイントとしたNOEC: 73 ng/Lを超過しており、季節変動を含めた継続的な調査が望まれる。
3: やや遅れている
水圏環境における未規制化学物質の網羅的スクリーニングは順調に遂行できているものの、魚類などの水生生物への未規制化学物質の移行残留性についての調査が遅れているため。
リスクが懸念された物質について季節変動を含めた継続的なモニタリングが望まれる。また、親化合物のトキシコフォア(毒性を惹起する部分構造)を保存している分解産物の環境動態や生態毒性に関する知見は不足していることから、高分解能質量分析計を用いた分解産物を含む網羅的スクリーニング調査を試みているところである。また魚類に残留する医薬品類・農薬類・ビスフェノール類・PFASの分析を進めており、生物濃縮係数の算出を予定している。環境中に遍在し生物濃縮性が高い物質については、ゼブラフィッシュ胚を用いた毒性評価試験を実施する。
35,271円は次年度に繰り越し、消耗品費として使用予定である。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Science of the Total Environment
巻: 866 ページ: 161258
10.1016/j.scitotenv.2022.161258
http://kanka.cmes.ehime-u.ac.jp