研究課題/領域番号 |
22K12429
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中島 常憲 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (70284908)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ヒ素置換型ヒドロキシアパタイト / コメ中ヒ濃度低減 / ヒ素不溶化技術 / 有害アニオン固定化 |
研究実績の概要 |
国際的にコメ中ヒ素の最大基準値を0.35 mg/kg以下にすることが定められているが、日本国内の水田で収穫されたコメ中から上記基準値を超過するヒ素が検出される事例がある。本研究課題では、肥料としてリンが存在する水田土壌中にカルシウム源を添加し、水田土壌にてヒ酸置換型ヒドロキシアパタイト(As-HAP)を合成し土壌中のヒ素を不溶化する技術の開発を目的としている。実際の水田土壌には炭酸イオンや他のアニオンなどヒ酸イオン、亜ヒ酸イオンとして存在するヒ素と化学構造が類似した共存化学種が存在している。これら共存化学種の影響を考慮して、安定なAs-HAPを合成する条件を検討した。また、水田土壌中に存在するリン、ヒ素の濃度や化学種がAs-HAPの合成に与える影響を検討した。 模擬的な検討として、水相中でAs-HAPを合成する実験を行った結果、リンとカルシウムのモル比(P/Ca)がヒドロキシアパタイト中のP/Ca理論値である0.6よりも小さい0.3程度に調整した場合、効果的にヒ素がヒドロキシアパタイト中へ取り込まれ、As-HAPを形成しやすいことが明らかとなった。また、炭酸イオンの共存下においてもAs-HAP中に取り込まれたヒ素は、再溶出せず安定に不溶化された。さらに、水田が潅水し土壌中への酸素供給が断たれた状態を想定し、還元雰囲気下でのAs-HAPの安定性についても検証した結果、還元雰囲気においてAs-HAPの一部崩壊が見られ、取り込まれたヒ素の一部が再溶出することが明らかとなった。 これらの結果より、実際の水田土壌環境で想定される、炭酸イオンなどが共存する環境、潅水により還元状態になった環境において、As-HAPを利用して安定的に水田土壌中のヒ素を固定化しコメ中に移行しない技術を開発するために検討すべき項目を抽出することができ、今後の検討項目を整理することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、水田土壌中でAs-HAPを合成し水田土壌中のヒ素を不溶化する技術の開発を目指して、①As-HAP合成に影響する共存化学種の解明、②As-HAPの結晶性に対する炭酸イオンの影響解明、③As-HAPの水溶解性に対する炭酸イオンの影響解明、④As-HAPの結晶性、水溶解性に対する共存化学種の影響解明、⑤フッ素添加がAs-HAPの結晶性、水溶解性に与える影響解明の5項目について検討することを当初計画としていた。 2022年度では、項目①、②、③、④について検討を実施し、項目①については、水相中でのAs-HAPの合成実験により、反応系におけるP/Caモル比をヒドロキシアパタイト単位構造中の理論値である0.6よりもPを不足した状態(0.4~0.3)にすることで、As-HAPの生成が促進されることを明らかにした。また、項目②、③については、炭酸イオンの共存によりAs-HAPの安定性が低下することが懸念されたが、炭酸イオン共存下においてAs-HAPの合成、安定性にあたえる影響は低いことが分かった。炭酸イオン共存下でのAs-HAP結晶構造の変化については、X線回折分析により得たスペクトルをリードベルト法を用いることで結晶構造の変化を定量的に評価できることが分かった。2023年度に具体的に炭酸イオン共存下でのAs-HAP安定性試験を行った後の試料を用いて結晶構造変化を検討する予定である。④については、共存化学種以外に、反応系の酸化還元雰囲気がAs-HAPの安定性に影響することが明らかになったため、特に還元性雰囲気下での結晶性、安定性を検証する実験を追加して実施する必要がある。 上記の様に、一部実験計画の見直しが必要な部分があるが、研究課題全体としては、おおむね順調な進捗状況といえる。
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今後の研究の推進方策 |
水田土壌中でのAs-HAPの合成に対して影響を及ぼす共存化学種として、当初炭酸イオンの影響が大きいと考えていたが、炭酸イオンの影響はあまり大きくなく、土壌に共存する鉄鉱物、アルミ鉱物の影響が影響することが文献研究により明らかとなった。また、土壌の酸化還元雰囲気もAs-HAPの生成や安定性に影響を及ぼすことが考えられるため、今後は炭酸イオンによる影響だけでなく、As-HAP合成やAs-HAP安定性に影響すると考えられる上記のような因子について、その影響を明らかにする実験を実施していく。 具体的には、Fe濃度が高い土壌中では一部のAsが鉄鉱物と結合し存在しておりヒドロキシアパタイト中に取り込まれにくいため、As-HAPの合成効率が低下することが懸念されることが想定される。よって今後は、実際の土壌中でのAs、P、Caの存在形態を考慮して、実際に土壌中で効果的にAs-HAPが合成できるかどうか実験的に検証する必要がある。具体的には、ゲータイトやフェリハイドライド等の鉄鉱物にヒ酸イオンを吸着させ、As-HAPの合成実験を実施する。さらにP化学形態についてもリン酸塩として存在するPだけでなく、チッ化リンやヒ素同様に鉄鉱物に結合して存在しているPを想定した実験を実施する。また、水田潅水時に土壌が還元雰囲気になった場合に、As-HAPが安定に存在できるかについてもさらに検証が必要である。具体的にはヒ素還元微生物やアスコルビン酸などの化学的還元剤を共存させ、As-HAPの安定性試験を実施する。上記検証を実施する際に、As-HAPからのヒ素溶出だけでなく、As-HAP結晶構造変化を検証していく。
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