研究課題/領域番号 |
22K12439
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小林 徹 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 特別嘱託研究員 (70202067)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | セシウム / 光吸収断面積 / レーザー |
研究実績の概要 |
当初令和4年度の研究計画は、「セシウム原子のレーザーイオン化光学系およびイオン検出のための真空実験装置製作」であったが、研究目標である励起電子状態間の吸収断面積測定をより正確におこなうためには、余分なイオン化過程を含まない励起状態からの発光強度測定が適切であると考えられることから、「セシウム封入セルと加熱装置を用いた原子発光検出光学系の整備」をおこなった。 本研究では、2つのレーザー光を用いて、セシウム原子を基底電子状態から第1励起状態へ、さらに第1励起状態から第2励起状態へ2段励起する。2段目のレーザー光強度を変化させ、観測される信号強度変化をシミュレーションすることにより、その吸収断面積を決定する。 市販品のセシウム封入石英セルを購入し、セル外周にシースヒーターと熱電対を配置することでセルの加熱および温度モニターを実現した。励起セシウム原子の発光は、セル側面に配置した集光レンズを通してグレーティング分光器に導入され、その強度は光電子増倍管で測定される。 第1励起状態(6p)の候補として2つの電子状態(2P1/2と2P3/2)があるが、それぞれ励起には波長894.6nmおよび852.2 nmのレーザーが必要である。本研究では色素レーザーの発振出力として取り出しやすい852.2 nmで励起可能な2P3/2電子状態を選択した。この状態から第2励起状態(7d)として2D3/2および2D5/2電子状態への励起が可能だが、2D3/2電子状態を選択するなら励起波長が698.5 nmであるのに対して、6p(2P1/2)電子状態への発光波長(672.5 nm)が励起レーザー光と異なるため、励起レーザー光の散乱に邪魔されることなく発光強度の正確な測定が出来ると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請時と実験装置の構成が変わったが、研究の進捗に特段の影響ははない。しかし実験装置(特に色素レーザー)の老朽化による部品交換等の修理作業が発生しており、今後の障害発生が懸念される。 セシウム封入セルの加熱において、当初レーザー入射ウィンドウにセシウム原子の蒸着が見られたが、シースヒーターの配置変更により問題解消した。 基底電子状態から第1励起状態6pへの励起に必要な波長852.2 nmの色素レーザー発振に成功し、共鳴発光の検出を行った。室温では散乱光強度が無視できないため、70℃まで加熱して実験をおこなった(蒸気圧は室温に比べて約90倍)。レーザー光強度を変化させて観測される発光強度変化から、飽和レーザー強度が判明した(5μJ/cm^2)。今後おこなう第2段励起過程の光吸収断面積測定において、第1段励起レーザー強度はこの飽和レーザー強度以上でおこなうこととする。 現在、第2段励起用色素レーザーの調整を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
提案時の計画に沿って、第1励起状態6pから多数の第2励起状態nd(7≦n)への励起過程について、その光吸収断面積の測定を行う。そのために必要なレーザー波長は700 nmよりも短波長であり、現有の色素レーザーで発生可能である。 今後実験から得られる光吸収断面積を、過去の文献値と比較して実験・解析手法を評価したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験手法の更新により、当初予定していた真空装置製作をセシウム封入セル購入に変更したため今年度使用額が変った。生じた差額は色素レーザーの補修に充てる予定である。
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