研究課題/領域番号 |
22K12462
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
三宅 洋 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (90345801)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 応用生態工学 / 河川生態学 / 群集生態学 / 攪乱生態学 / 出水攪乱 / 生物応答 / 気候変動 / 河川性底生動物 |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者が過去に愛媛県内河川の266地点で行った網羅的調査の結果をベースラインデータとして活用し、(1)出水攪乱に対する底生動物の短期的応答に関する事例データを蓄積すること、(2)応答パターンの要因解析により大規模出水後にも底生動物の量や多様性が維持されやすい河川の環境特性を解明することを目的としている。さらに、H15年より長期的調査を行っている代表河川を対象として、(3)大規模出水の生起状況と関連付けて底生動物群集の長期的動態の決定要因を明らかにする。これらの結果を統合し、最終的には(4)出水撹乱激化のインパクトを緩和しうる気候変動適応型の河川管理手法を提案することを目指している。 本年度は、まず、台風14号の接近により愛媛県仁淀川流域(面河川水系)で9月18日~20日に発生した大規模出水を対象として、底生動物群集の出水攪乱に対する短期的応答を捉えることに成功した(上記(1)に対応)。過去に環境・底生動物調査を実施している6支流18調査地を再訪して過去と同様の手法で攪乱後の調査を実施した。この結果、底生動物の生息密度、分類群数および群集構造の変化は調査地により差があること、この差は餌資源の利用可能性により生じている可能性があることを把握している(上記(2)に対応)。 さらに、長期的データの解析により複数の出水攪乱に対する底生動物群集の反応を把握した(上記(3)に対応)。愛媛県重信川の過去18年間の出水攪乱の発生状況を整理した。これらのうち計18回の出水について8調査地を対象に発生前および発生後の底生動物の生息密度、分類群数および群集構造を比較した。この結果、調査機会間の攪乱頻度が底生動物の応答に関係することを把握している。 以上の結果は、上記(4)の出水撹乱激化のインパクトを緩和しうる気候変動適応型の河川管理手法を提案するために重要な知見を提供するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に計画していた「(4-1)短期的な底生動物群集の出水攪乱応答パターン」について、愛媛県仁淀川流域において記録的な出水に対する底生動物群集の応答を把握することが出来た。計18地点で得られたデータに基づき、底生動物応答に差を生じさせる要因についての解析も行っている。 「(4-2)長期的な底生動物群集の動態パターンの把握」についても、対象河川である愛媛県重信川で過去18年に発生した出水攪乱を整理し、内18回の出水攪乱について底生動物群集の応答を把握している。8地点で得られた応答パターンの解析により、攪乱頻度が底生動物応答の決定要因として重要であることを把握している。 研究初年度であるものの、以上の成果に関連する内容の一部は、予備的な関連研究も含め、1編の学術論文、3件の学会発表として公表されている。今後もデータの蓄積と解析の進行にともない積極的に成果を公表していく。 以上を総合すると、本年度は申請時の研究計画にあった事項にすべて取り組んでおり、いずれもトラブルなく進行している。相応の研究成果も得られていることから、達成度は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画2年目にあたる次年度は、まず、「(4-1)短期的な底生動物群集の出水攪乱応答パターン」について、今年度と同様に大規模出水攪乱に対する底生動物群集の短期応答に関するデータを蓄積する。愛媛県内の降雨・出水の発生状況に関する情報を継続的に収集し、出水攪乱発生に対して即応的に調査できる体制を常に維持する。 「(4-2)長期的な底生動物群集の動態パターンの把握」については、対象河川である愛媛県重信川本流の8地点における3カ月毎の定期的調査を継続する。データの蓄積にともない底生動物群集の長期的動態に関する解析を進める。 得られた成果は論文・学会発表の形で適時公表する。助成期間が終了するR8年3月までに、本研究の最終的な目的である「(4-3)河川管理手法の提案」が達成できるよう研究を進行させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額213,182円が生じたのは、主に初期申請時に計上していたパソコン類を購入せず、物品費の使用が少なかったことによる。これは初期申請額に対して交付額が少なく、今年度の購入を見合わせたためである。交付申請していた人件費・謝金については、指導する大学院生・学生の担当によりサンプル処理にともなう実験補助を要しなかったことによる。これらに代わり、現地調査実施時に使用するWifiルーターを購入したため、その他が交付申請額より増加している。旅費についてはほぼ交付申請額通りの使用額だった。 令和5年度は、令和7年度および令和8年度に予定していた海外学会への参加を繰り上げて実施するため、交付申請時より旅費が増加する予定である。これは、今年度の調査にて相応のデータが得られたこと、さらに、コロナ禍の収束にともない早期に海外学会に参加して最新の研究動向の把握が可能な状況になってきたことによるもので、主に今年度に発生した次年度使用分を充てる。物品費、人件費・謝金およびその他については交付申請時通りとなる見通しであり、最終的には当初計画していた費目配分と大きく変わることなく助成事業を完遂できる予定である。
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