研究課題/領域番号 |
22K12464
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
高木 俊 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (10637424)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 野生動物管理 / 生息地 / クマ |
研究実績の概要 |
本研究では、全国的な分布拡大状況に伴い、低標高地域への進出や地域個体群間交流が進行しているツキノワグマの新たな保護管理モデルを構築することを目的に、西日本のツキノワグマを対象として、[1]捕獲位置情報の経年分析に基づく分布拡大過程の解明、[2]分布拡大地域における生息環境利用特性の解明、[3]分布境界域を含む生息地の空間配置分析に基づく生息地間ネットワークの評価、[4]生息地間移動を考慮した空間個体数推定モデルの構築を行う。2022年度はモニタリングデータの整理、個体群全体の生息状況の推定、捕獲位置情報に基づく移動分散特性の分析、コア生息地と分布拡大域の推定を行った。 兵庫県および近隣府県における個体ごとの対応記録(捕獲・放獣・殺処分)情報(約11,000件)を整理し、個体ごと・年ごとの捕獲履歴(約3400個体)を整理した。捕獲再捕獲情報に基づく2011年以降の推定個体数の動向は、2018年頃までは増加傾向だったのが、約800頭前後で頭打ちになる傾向が見られた。放獣地点と再捕獲地点の距離の分析の結果、性・齢ごとに移動距離の傾向が異なり、メスでは出生地からの分散は限定的であるが、オスの幼獣で特に再捕獲地点までの距離が大きい傾向が見られた。コア生息地ではオス・メスともに捕獲され、分布拡大地では移動分散距離の大きいオスの捕獲に偏ることが想定されたことから、捕獲に占めるオス:メス比の地理的傾向の経年変化の分析を行った。メスの捕獲比率の高い地域は、個体数増加期(~2018年)に拡大傾向にあり、2010年以前にはオスの捕獲比率が高く、分布拡大地と推察されていた地域が、メスとオスが同様に捕獲される生息地に置き換わったことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
捕獲位置情報の経年分析に基づく分布拡大過程の解明について、2022年度に分析を予定していた、既存データの整理と分析が予定通り進み、雌雄・年齢ごとの捕獲傾向と経年変化の把握を達成した。また、分布拡大地域における生息環境利用特性の解明については、2022年度に分析を予定していた、分布拡大地域とコア生息地の分類まで実施を終えている。空間個体数推定モデルの構築については、2023年度以降に本格実施を予定しているが、予備的分析として、個体群スケールでのデータを元にした分析を実施し、空間ユニットごとの個体数の動態の推定に成功しており、学会での発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
継続的に収集されるモニタリングデータについては、データの更新を行う。前年度の分析結果について、手法の精査を行い、学会発表として取りまとめを行う。 捕獲位置情報の経年分析に基づく分布拡大過程の解明について、コア生息地・分布拡大地域として分類された地域における自動撮影カメラ情報の分析を行い、撮影された個体情報について地域的な傾向の分析を行う。分布拡大地域における生息環境利用特性の解明について、2023年度に実施を予定しているGPS発信機による行動追跡情報について、すでに収集済みのデータを整理し、特にメスの景観利用に着目して分析を行う。分布境界域を含む生息地の空間配置分析に基づく生息地間ネットワークの評価については、捕獲情報のクラスタリングに基づく生息地の抽出と生息地間の抵抗性に基づく連結性評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
事前調査のため2023年度導入予定としていた調査分析機器の一部を2022年度に執行した。また、2022年度末に導入予定としていた解析環境について、予備解析結果を受けてからの導入を検討していたが、分析前のデータ整理作業が予定よりも遅れたため、既存環境での分析を行い、解析環境の構築については2023年度前半での使用とした。
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