研究課題/領域番号 |
22K12466
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
吉田 磨 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (20448830)
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研究分担者 |
山田 浩之 北海道大学, 農学研究院, 講師 (10374620)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 釧路湿原 / ヒシ / 湖沼の生物多様性 / UAV空撮 / ロボットボート / 衛生画像解析 / 流域生態系 / 湖沼環境修復 |
研究実績の概要 |
ここ20年で日本最大の湿原である釧路湿原内シラルトロ湖において浮葉植物のヒシ属が急速に増加し、湿原の多様性は著しく衰退している。そこでヒシ拡大要因、正のフィードバック現象の度合い、湖内の生物多様性の減少度合いを明らかにし、ヒシ除去による湖内の水環境や生物多様性の回復を目指すこととした。 この目的を達成するため、初年度の2022年度は、各関係省庁にフィールド観測に関する事前相談を行った。また、栄養塩等の環境化学分析やUAVによる空撮、ロボットボートによる広域観測を実施して、水環境の季節変化とヒシ範囲拡大との因果関係を明らかにするための準備としてUAV空撮テストや水質観測ロボットボートの開発とテスト航行を実施し、ヒシ拡大範囲でも乗船型のボート観測もできるように、ヒシの影響を極力受けない縦長のボートを新たに準備し、小型の電動モータ推進の準備も整えた。 あわせて、衛星画像データから過去から現在までの土地利用変化を特定する研究を実施した。尾山ら (2017) による手法を用いて、先行研究で明らかにされていた2010年までの研究結果以降のデータを補完するため、2013、2017、2019、2020、2022年のヒシ分布範囲を特定した。その結果、2017年以降はシラルトロ湖北側まで分布範囲も面積も拡大していることや、急激に拡大した後には一度環境ストレスが原因と考えられる分布面積の縮小も確認できた。 更にはシラルトロ湖のみならず、達古武湖や塘路湖も加えた釧路湿原内3湖沼の流域を土地の高低差から決定し、過去から現在までシラルトロ湖周辺流域の土地利用の変遷を衛星画像データから特定した。その結果、農地や宅地の大幅な面積増加は確認されなかったが、森林面積が減少し、荒れ地やハンノキ林が増加していることも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度のため、各関係省庁にフィールド観測に関する事前相談を行うこととし、以降の研究を進めるための法令遵守に係る確認ができた。ヒシのライフサイクルに合わせて季節変動を明らかにするための準備と位置づけ、2022年度は現地踏査にとどめることとした。そのため、乗船型のボートを用いて観測したサンプルを用いた栄養塩等の環境化学分析は次年度に送ることとしたが、UAVによる空撮、他湖沼においてロボットボートによる観測を実施して、水環境の季節変化とヒシ範囲拡大との因果関係を明らかにするための準備としてUAV空撮のテストや水質観測用ロボットボートの開発とその試験航行が実施できた。また、衛星画像解析で明らかになったヒシの範囲拡大により、広範囲の乗船型ボート観測を可能にするため、ヒシの影響を極力受けない縦長のボートを新たに準備し、大型のエンジンではヒシがプロペラに絡みやすいため、小型の電動モータ推進の準備も整えた。 あわせて、尾山ら (2017) による手法を用いて、先行研究で明らかにされていた2010年までの研究結果以降のデータを補完するべく、2013、2017、2019、2020、2022年のヒシ分布範囲を特定した。その結果、2017年以降はシラルトロ湖北側まで分布範囲も面積も拡大していることや、急激に拡大した後には一度環境ストレスが原因と考えられる分布面積の縮小も確認できた。 更にはシラルトロ湖のみならず、達古武湖や塘路湖も加えた釧路湿原内3湖沼の流域を土地の高低差から決定し、過去から現在までシラルトロ湖周辺流域の土地利用の変遷を衛星画像データから特定した。その結果、農地や宅地の大幅な面積増加は確認されなかったが、森林面積が減少し、荒れ地やハンノキ林が増加していることも確認できた。 以上より、おおむね順調に進展していると評価することとした。
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今後の研究の推進方策 |
シラルトロ湖や周辺河川においてヒシ発芽期の初夏、最盛期の盛夏、枯死する秋にそれぞれUAV空撮や乗船型船舶、ロボットボートを用いた現場フィールド観測を実施する。その中で、無機栄養塩、全窒素全リン、溶存酸素、EC、各種イオン成分、pH、濁度、COD、河川流量等の流域環境化学的手法を用いた現地計測やサンプリング、ヒシの実測を行う。 UAVによる空撮、ロボットボートによる広域の水質調査を実施し、ヒシの詳細な生息状況の特定と水環境動態、河川負荷量の季節変動を明らかにする。また、堆積物採取器で湖底堆積物をサンプリングし、土壌成分を分析してヒシの元素量を算出する。更に、一部の水域でヒシを刈り取り、翌年刈り取り区と非刈り取り区を比較する。これにより、ヒシの生育と拡大に刈り取りの効果があるかを検証し、蓄積されている元素量からヒシ刈り取りによる湖内環境改善効果を見積もる。 2024年度以降は、ヒシに覆われていない水域、ヒシに覆われている水域、ヒシに覆われていたが刈り取った水域に分けて、船舶にて湖上からの水中観察による生物調査、ソナーを搭載したロボットボートで湖底の地形や底質、水草の分布調査を実施する。これらの調査により、ヒシの有無による生物多様性の実態を把握する。
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次年度使用額が生じた理由 |
法令遵守のための現地関係省庁の確認や、現地踏査による2023年度以降の研究準備主体に計画を変更したため、フィールド観測旅費とそのための謝金が一部減額となったため。 この金額については、2023年度のフィールド観測旅費や研究資機材の購入に関連して、物価高騰に伴う支払経費増加のための費用として有効に活用する予定。
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